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11.ポップサーカス 【2】

「先輩」 「ん、てか別に京灯でいいし」 「マジで?」 「おう。先輩とか言われんのって慣れてないし、なんか落ち着かねんだよな」 「ははっ、そっか。んじゃ、京灯な」 「ほいほい」 俺別に、上下関係とかあんまこだわらないタイプだから。 そのお陰様でまあ、昔は派手にいざこざが絶えなかったもんだぜ…ッ!! なんて、特に自慢気にバラせる様な過去でもないが。 まあ先輩だのさん付けされるよりは、もうスッパリ呼び捨てされるほうが気分も楽ってことで。 でも初対面でいきなり呼び捨ては流石にナシだぜ、なんてな。 「俺のことも、翔な」 「おう、翔な」 「へへっ、そうそう」 お望み通り佐伯の事を名前で呼べば、ニッコリと嬉しそうに笑う翔。 「部活は行くのか?」 「行く行く」 名前で、か。 批土岐のことを未だに名前で呼べない俺が、すんなりと佐伯の名を今口にしている。 でも分かってくれ、俺の中にある批土岐と佐伯の位置は全然ちげえんだ。 友達としてとかだったら躊躇いも別にねえけど、批土岐はそれとは全く別ものだし、照れんじゃんかよ…なんか。 ああ!!分かんねえかなこの微妙なニュアンス…ッ!! て、なに自分に言い訳してんだ俺。 「サッカー楽しいか?」 「そりゃあな。京灯は? なんか部活してねえの?」 ジュースを口へ運びつつ、脳内ではザワザワと騒ぎ立てていて、そんな自分を微塵も表には出さず笑顔を絶やさない。 「してねえなあ、めんどいし」 「そっか」 ガラス張りの向こうでは、リアルを忙しなく生きていく人々の姿が行き来していて、走る車へなんとなく視線を向けてしまう。 やばいか、やべえよな。 すでにタイミングと言うものを踏み外してしまっている俺、幾らでも断るチャンスはあるはずなのに、それらをことごとく見送ってしまって。 批土岐に悪いことをしていると思う、それはもちろん翔にも。 「でもなあ、部活やってたらもっと人気出てそうだしな。帰宅部で良かったのかもな」 「なあに言ってんだよ、翔ちゃんバカなのね。つかそんな人気なんて…ッ、まあ確かに俺かっけえけど!!」 「……」 「や、冗談だってシカトすんなよ翔ちゃん。そこは激しく否定してくんねえと、惨めってもんだぜ俺が」 さあいつでも突っ込んでくれと言わんばかりに言葉を放てば、予想を大きく外れて黙り込んでしまう佐伯。 言った言葉が言葉なだけに、このタイミングでの放置プレイは妙に寂しい。

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