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23.ポップサーカス 【2】
「有り得ねえ、俺…っ」
追い掛ける事も出来ず、去って行く批土岐の後ろ姿をただ眺めているしか出来なかった。
再び静寂に包まれる教室で一人、額に添えられた手が前髪を掻き上げ、表情には複雑さが窺える。
ここまでとんでもない事態になるとは、思いもしていなかった。
だけどこれは全部、俺が後回しにして逃げてた分のツケ。
「批土岐…、傷ついたかな…」
傷つくよな、傷つかないはずないよな。
どれもこれも全部、はっきりさせなかった俺のせいだ。
「…批土岐、佐伯…」
ゆっくりと机の横にぶら下げてあった鞄を取り、自己へと問い掛ける様に呟く。
「どうすんだ~っ! どうすんだ俺!!」
批土岐と、お別れか?
「んなの出来るわけねえだろ!!」
だったらもう、やるべき事は一つしかねえ。
そんなのとっくに分かってたはずじゃねえか。
やっとまた固まってくれた当初の決意、スタートダッシュを軽やかに決めた足は、ある場所へと急ぎ走り出していた。
「どこだ~何処にいたアイツ~っ」
弾む息を整えていきながら目を細め、多くいるサッカー部員の中からただ一人を探す。
アイツじゃねえ、ちげえ、アイツでもねえ。
「あ、いた」
スペシャルな速さで一人一人を見ていきながら、やがてベンチに座って仲間と楽しそうに喋りながらグラウンドを眺めている佐伯を視界が捉える。
迷う、躊躇う、そんなのもう十分過ぎる位やってきたじゃねえか。
佐伯の元へと続く階段の上から、すうっと大きく深呼吸をする。
「佐伯──ッ!!!」
こんな声未だかつて出した事ねえって位に、佐伯を目指して雄叫びを張り上げていた。
辺りにいた奴ら全員が振り向く程に効果大。
中でも当事者である佐伯と言えば驚きに目を丸くし、俺の姿を確認するや否や物凄い勢いで階段を駆け上がってきた。
「ど、どうしたんだよ京灯?!」
「ごめん!!」
「えっ?」
目の前へと辿り着いてものの数秒、ガバッと突然に頭を下げてきた俺に、ワケが分からないと困惑した様子を見せる佐伯。
「俺、お前とは付き合えねえ…っ。言うのすっげ遅くてごめん!! ホントは、あの日のうちに言っとかなきゃいけなかったのに…っ」
「京灯」
今まで言おう言おうと思っていて、いつまで経っても言えなかった想いたち。
それが一言滑り落ちた途端、一気に俺の口から次から次へと放たれていく。
「わーかってたよ、そんなこと」
「……へっ?」
どんな反応が返ってくるのかと不安を感じていた中、頭上から降ってきたのは余りに予想を裏切るような言葉だった。
そろりと顔を上げ視線を合わせてみれば、そこには変わらぬ笑みを浮かべた姿があって。
て、なんか軽くねえその一言…っ!!?
「会長と、なんだろ?」
「え゛ぇぇっ!!」
サラリと後に続いた言葉に、ズザザッと反射的に後ろへ下がりたくなった。
んなっ、なっ…なんで知ってんだよそんな事~っ!!
「最初っから無理ってことは分かってた。けど、やっぱどうしても言っておきたくてさ…」
「翔…」
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