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1.ポップサーカス 【7】

「納得いかないんですけど、会長」 張り詰めた空気が室内を占拠していた中で、一見華奢で大人しそうな男子生徒がガタリと席から立ち上がる。 会議室にて一同に介していた各部の部長たち、誰もがその生徒の視線の先へと一斉に瞳を向ける。 「納得出来なくて構わない。君がなにを言ったところで、この決定が覆ることはない」 睨みつける視線をものともせず、批土岐は一言一言丁寧にしかしハッキリと言葉を口にする。 バアンッッ 「ふざけんなよ。そんなことしていいと思ってんの?」 それを聞いた生徒、不愉快さを全面に押し出して長机を思いっきり掌で叩きつける。 可愛いという表現がよく似合うその顔立ちからは想像もつかないような態度、制服もきちんと着ていて見た目は優等生、けれど今は違っていた。 しんと静まり返っていた室内には激しくその音は大きく響き渡り、女子生徒の中には肩をビクッと震わせる者も何人か居た。 周りの様子なんて気にも留めず、敵意に満ちた声とともに容赦なく睨みつけ、脅しをかける。 「言っただろう?これは決定事項。ろくに活動もしていない部に、支払う部費はない」 「ッ…!!」 それでも臆さない批土岐は、ゆったりと柔らかい口調ではあったけれどその瞳だけは強い意志がハッキリと見てとれるもので。 「こんなことして…どうなるか分かってんだろうな!」 「さあ、分からないな」 「──ッ!!」 息巻いて叫ぶその生徒とは対照的に、至って冷静に答える。柔和な笑み、それは生徒へのトドメの一撃だった。 「ッ……!!!」 ──バタンッッ 何か言いたげだった唇をぎゅっと引き結んで、足音荒く室内を後にして。 当事者以外は暫し呆然とし、途端に静かになった室内で頭の中を整理するのに手間取っている。 「言ったな会長!」 「すっげえスカッとした~ホント部費泥棒だしあの部!」 時間が刻々と過ぎ去っていく中で、口々にするのは歓喜の声。 誰もかれもが、先程の生徒率いる科学部に不満を募らせていたらしい。 活動なんてものは全くしていないというのに、部費だけはしっかり戴いていた部。 廃部や部費削減などすぐにでも行動をとれば良かったものの、それがなかなか簡単にはいかない理由があった。 「会長…ッ、大丈夫でしょうか…?」 「どうだろうね」 一斉に盛り上がり出した空気から一線を引いて、勝負に出た張本人は喜びもしなければ感情の窺えない瞳でじっと前だけを見つめていた。 その様子に、隣に座っていた副会長が心配そうに言葉を漏らす。 「なにもないでは、終わらなそうだけど」 「…ッその時は一体…」 なにも起こらず終わるわけがない。 それを確信していながらもあえて、引き金をひいた。 「大丈夫。…俺がなんとかする」 隣へと視線を向けてフワりと笑うその柔らかい表情からはおよそ想像もつかない、──決意。

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