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7.ポップサーカス 【7】
「ふん、まあいいさ。精々演説の内容でも考えて、楽しみに待ってるんだな」
「テメッ…!!!」
「行くな」
「ひときっ…」
ドコまでも腹が立つ奴は、去り際もやっぱり最高に神経を逆撫でしてきて。
また掴みかかろうと前へ出ようとした俺を、批土岐が制す。
「アイツ…ッ、許せねえ」
蠢いていた人混みが、那月の歩く方向にだけザッと綺麗に生徒が散って道が出来上がる。
無言で見守る一人一人には目もくれず、那月は悠々と群れの中を後にした。
「会長!!」
「…ッ?」
その光景を、未だ憤る思いで見送ってから拳を握って。
やがてザワつき出しポツりポツりとその場から移動していく生徒たちを余所に、俺の心中は当たり前だが穏やかでなく。
「大丈夫ですかッ…?」
「ああ、大丈夫…」
次会ったら手ぇ出しちゃうかもなんて思っていた横で、廣瀬が批土岐の側へと駆け寄って来た。
「大変なことになってしまいましたねッ…」
「まあ、案の定…だね。彼が黙ったままでいるとは思えないから」
さりげなく批土岐の肩へとまわされた廣瀬の腕を気にしながら、二人の会話に聞き耳を立てる。
一体なにがどうなってこうなったのか、俺には全く知り得るはずもなくて。
盗み聞きしたところによると、すでにさっきへと繋がる為の一波乱があったらしい。
んだよ、俺なんも知らねえよ…ッ
「とにかく、時間が余りありません!皆もう集まってるので、これからのことを話し合いましょう…ッ」
「…ああ」
途端に複雑な心境へと立たされた俺を軽く無視して繰り広げられる会話。
やがて廣瀬がこの場でのやり取りを打ち切って、たぶん生徒会室へと向けて批土岐を抱くように歩き出す。
「ちょ、オイッ…!」
なにこの俺を差し置いて勝手に話進めてんだよ!!
批土岐はたぶん那月をどうするか考えてでもいるんだろう、物思いに耽ると割と隙だらけになることを熟知してるあたり、流石に側近なだけある副会長。
ろくに状況も呑め込めないままに置き去りにされかけて、慌てて呼び止めようとしてみるも微かに振り向いた廣瀬の視線に言葉が半端に途切れてしまった。
「…ッんだよ…」
別に睨まれたわけじゃねえ、ただチラッと見られただけ。
だけど、なんかそこに込められてた思いが複雑で……
二人の背中を見送ることしか出来なかった。
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