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11.ポップサーカス 【7】
「成山くん」
「?」
俺はやるぜ─!!と一人燃え盛っていたら、背後からふいに声がして振り返る。
「アレ?お前…確か、廣瀬…だっけ」
「そうです」
声を掛けてきた相手は、意外な奴だった。
今までまともに話なんてしたこともねえのにお互いを知っていたのは、批土岐という共通の存在が間にいたからで。
こうやって言葉を交わすのは、たぶんきっと初めてだった。
「行かなくていーの?お前って副会長じゃん?」
「すぐ追いかけますから。だけどその前に」
「?」
腰の低い態度、基本的に誰であろうと敬語を使うこの廣瀬は、批土岐とはまた違った雰囲気を身に纏っている。
そんな廣瀬が、無い時間を裂いてまで一体俺になんの用なのか。
「会長と、距離を置いてくれませんか」
「…え?」
隣に位置する廣瀬と廊下を歩んでいきながら、次第にまばらになっていく生徒を横目に遠慮がちに俺に口を開いてきた。
「どうしても、会長を勝たせたいんです」
「アイツが負けるわけねえじゃん」
「分かってます。でも……」
俺に、アイツと距離を置け?
なんだよどういう意味かな廣瀬ちゃんよ─。
「少しでも不安と感じる要素は取り払いたいんです」
「…不安要素ッ?」
俺とは視線を合わさず、合わせられねえだけかもしんねえけど。
言葉が、なんか朝に那月に言われた言葉と被ってるように聞こえてズンとした衝撃が頭に乗っかってくる。
「…んだよソレ…なあ」
「す、すいませんっ…あの頃とは違うってことは十分分かってます!でも…っ」
「でも…?」
感情を露わにせず、淡々と視線も向けずに廣瀬に問い掛けて。
頼んでもねえのに謝ってくるけど、それでも決してやめようとはしない。
批土岐を慕っての行動。
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