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21.ポップサーカス 【7】
「廣瀬……」
何とも言えず複雑な表情を浮かべながら、室内に一歩入った位のところで立っているその存在に。
一見するとどうとでも誤解出来る気まずい状況に、ゆっくりと立ち上がり視線を合わせながら言葉を選ぶ。
「奴らが、票数稼ぐ為に卑怯なマネしてたから」
「だから、力でねじ伏せるんですか」
「なっ!違ぇって俺は…っあ!!」
一旦切った喋りの後に続けて、廣瀬は相変わらず丁寧な言葉で喋り続ける。
「ッ…逃げられた…」
だけど目の前に気を取られていたせいか、後ろにまで気を張っていられなくて。
油断していた間に携帯を取り返され、気付いた時には教室からもう姿が消えるところで。
「……ッ」
肝心の画像はとっくに始末していたから、別に今はなにを焦る必要もなかったけれど。
少しは話が分かりそうな気がしてきてただけに、逃げられてしまったことが正直少し惜しい気がした。
「つうか、なんでお前こんなとこに…」
「凄い勢いで走っていたじゃないですか。なんとなくその足音が気になって、生徒会室から抜けてきたんです」
「…あっそ」
相変わらず今日も、生徒会様は大忙しってわけですか。
「…言ったじゃないですか」
「…?」
静けさが漂う空気の中で、廣瀬と相対しながら言葉の続きを待つ。
「…距離を置いてほしいって」
「なんでお前の言うこと聞かなきゃなんねえんだよ」
案の定、予想のついていた言葉。
「分からないんですか?貴方が側に居ることが、一つの不安に繋がるんです」
「ッなんでだよ…!」
態度の丁寧さとは裏腹に、突き放すようなその言葉に俺の精神がまたぐらつきそうになる。
だから何回も言ってんじゃん。
なにも出来ねえのは嫌だって……
「それに、批土岐の側にいねえよ俺は…」
お前に言われたあの時以降、ぶっちゃけ批土岐とはまともに会話なんか出来ていなかった。
忙しい身の上であるから当然、なんとなく気まずさを感じてしまった俺の気持ちも手伝って。
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