119 / 155
28.ポップサーカス 【7】
「……」
すでに体育館には、全校生徒含め教員たちが一同に集結していて。
ザワつく場内を余所に、舞台袖ではこれから火花を散らす両雄がそれぞれの思いに耽りながら時間までを過ごす。
その代表者を更に優位に立たすべく、応援者も一名付くこの時期前代未聞の生徒会長選挙。
多額の寄付金納めてるだかなんだか知らねえが、余りにも勝手な私情によって引き起こされたこの波乱。
決着をつける時が、やってきた。
『静かにして下さい』
生徒会役員の声が、マイクを通してフロア内に響き渡る。
その呼び掛けに、少しずつザワめきのボリュームが低くなっていく。
「…で、その理由は…」
会長候補たちからはかなり離れた暗がりで、緊張に押し潰されないようなんとか気を落ち着かせる努力をしつつブツブツと言葉を繰り返す。
自分という存在も後の選挙に大きく関わっていくだけに失敗は絶対に出来ないと、プレッシャーに重たくのしかかられながら立ち尽くす批土岐の応援弁士である副会長の廣瀬。
「……はあ」
不安に苛まれながらの弱気な溜息をポツリ。
「副会長」
「…え?…………て、君は…ッ」
すっかり自分の世界に入り込んでしまっていたせいか側に寄るまで全く気付かなかった廣瀬。
呼び掛けに反応し視線を向けて直後、驚くようなどこか戸惑うような言葉を漏らした。
「その役目、譲って下さい」
「え、ええ!?」
未だに混乱しているその姿に構うことなく、始まりまでもう時間も迫ってきていた中で目の前を通り過ぎて批土岐のもとへと向かう。
『只今より、生徒会長候補者と応援者による演説会を始めます』
距離が狭まっていく、その間に再び体育館内に響いた開始の合図。
「て、あっ!さっきのって……」
急な展開に頭がついていけていなかった廣瀬、ステージ側の舞台袖へと移動していく姿を暫しぼんやり見つめた後にハッとする。
けれど今気付いても、すでに後の祭。
「大丈夫?緊張してない?」
暗く、よく表情を確認出来ない状況最中で批土岐はアガッてしまっているだろう副会長へと向けて穏やかに言葉をかける。
視線までは向けられなかったけれど、そこに廣瀬が立っていると確信のもと言われた言葉。
「……」
けれどなにも答えがないことに、ふと一瞬瞳を向けてきたような気がした。
「……?」
暗くよく見えないけれど、鋭い批土岐にはなにか違和感を感じ取ったらしい。
「君は……」
副会長なのかどうか確かめるように、窺うように言葉をかける。
「……」
それには何も答えず、真っ直ぐステージへと視線を向けたまま。
最終戦、奴ら二人がステージへと出て行ったのを見届けて。
「行こうか」
副会長なのか訝しく思いながらも、言葉をかけてきたその姿に頷いて歩き出すお互い。
ともだちにシェアしよう!