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29.ポップサーカス 【7】
ザワッッ
途端に明るくなる視界に、ステージへと姿を現してすぐにザワつき始める体育館。
「?……ッ!?」
その意外な出来事に、一体なにに対しての反応なのかと批土岐はアリーナのほうへと視線を向けて。
「……ッ京灯?」
瞬間、隣を歩いていたのが俺だったことに気付き、驚きに目を見開きながら小さく口を開いた批土岐。
「どーも」
微かな声に、初めて視線を合わせてフッと笑ってみせる。
「ね、あれって成山くん?!」
席へと向かいながら、そんな声がステージへと届く。
そう、その反応も無理はない。
『し、静かにしてください』
予定とは違う展開に少なからず困惑しているのが窺える声、瞳に映る生徒や教員の驚いた顔。
「京灯……一体…」
備えられていたパイプ椅子へと座り、批土岐は視線は前へと向けたままでそう俺に問い掛けてくる。
何が一体どうなってるのか、流石の批土岐も見当がつかないらしい。
「勝手なことしてわりい。でも……」
「……」
お互いに視線は前へと送られたまま、小さく口を開いて二人の間でだけ聞こえるように話をして。
「わざわざ染めたのか?」
「ん?……ハズいから言わないで」
次第に冷静さを取り戻してきたらしい批土岐、言われた言葉に自分でも改めて今の状態を思い出す。
「応援って副会長に決まったんじゃなかったっけ?」
「分かんねえ」
「つか、アレほんとに成山?」
まだまだ落ち着きそうもないギャラリーの囁き合い、殆どその話題の中心に居るのは俺。
真っ黒に染め上げた髪、ワックスなんて小細工は一切ナシ。
耳はもちろん、口ピも当然取ってきた。
腕にも首にも指にも一切アクセは無くて、飾りもなにもない今になって初めてそのまんま素直な制服の着方をしていた俺。
一言で終わらせれば、優等生な着こなし。
今の俺は、批土岐の隣に立っててもなんら違和感のない、超模範的優等生。
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