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31.ポップサーカス 【7】
「……ッ!」
「ハイハイハイハイ。そろそろいいよな?」
次の言葉を探していた取り巻きの唇が再び開かれる前に、間へと割って入ってきた明るく陽気な声。
「わりいな!!始めちゃっていいぜ!」
ヒラヒラと手を振り、司会進行役の生徒会の女子生徒に笑いかける。
……慶史…
その直後にバチッと目が合って、慶史は俺にいつもと変わらない笑顔を見せて。
「チッ…!!」
ドカりと席に着いた取り巻きたちへは目もくれず、すっと俺へと体ごと向けてくる響ちゃんと峰くん。
「「ばーか」」
こんにゃろ!!可愛い奴らめ!!
例え親指がついウッカリ上じゃなくて下へ向けられていたとしてもだ。
ここからじゃよく分からないけど口パクで恐らくバーカあたり言われちゃっててもだ。
素直に、愛しい奴ら。
『再開します』
役員の子の声を合図に、黙って席へと戻る峰くんや響ちゃん。
一瞬、図ったわけでもないのに同時に視線を向けられて。
『では、これから応援演説を始めます。成山京灯さんから、お願いします』
え、早速俺?
誰に聞かなくても名前なんて普通に知っていたらしい役員の女の子は戸惑う様子もなく俺の名前を口にして、しょっぱなから俺なのかと少し心配になりながらもぜってえキメる!!と気合い入れて立ち上がる。
「…京灯」
「…?」
歩こうとした俺に、批土岐が小さく声を出す。
ステージ中央へと視線は向けたまま、耳だけは隣へと集中して。
「…………ありがとう」
「…ッ」
思いがけない言葉、俺のこの勝手極まりない行動に内心じゃ凄ぇ怒ってんじゃないかとか正直思ったことは認める。
でも、今この時で全て飛んだ。
お前にそんなこと言われちゃ、こりゃ絶対ヘマなんて出来ねえな。
「即席優等生だけど、勘弁してな」
聞こえたか分かんないけど、ボソッと呟いてからゆっくりと歩き出す。
「せんぱ──い!!!」
「?」
これでも結構緊張している俺、落ち着けと心で言い聞かせながら壇へと向かう。
その途中で、静まっていた雰囲気を打ち破るデカい声が耳に勢い良く入ってきて。
「かっけえっすマジ!!」
ニッコリと、翔が笑いかけてくる。
「…ばーか」
声には出さず、込み上げる嬉しさを素直に表情に出して微笑んでから、マイクの前に立った。
「僕は──」
慣れない一人称。
頼むから、腹抱えて笑うのは後からにしてな?
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