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3.ポップサーカス 【9】
「………ボール」
暫しの時を漂い、そして行き着いた先には、テンテンと音を立てながら足下を転がる一つのサッカーボール。
ああ、そうか。
「……馬鹿だな」
とっさの行動だったのだろう、自分の身を犠牲にして俺を庇って、意識まで手放して。
淡々とした言葉ではあるが、そこには確かに悔やみが生じていた。
「大丈夫ですか…ッ!!」
とりあえずはまず、保健室へ連れて行かなければと思ったところで、何処からともなく掛けられた声に顔を向ける。
「………」
朝練真っ只中、ユニフォームに身を包んだ部員が慌てた様子で駆け寄ってくる。
場は少なからず騒然として、立ち止まり視線を寄越してくる生徒もチラチラと窺える。
余り騒ぎを大きくはしたくないな、すでに学内総てへ行き渡っているだろう知名度を思い、これ以上京灯を目立たせたくないと瞬時に考える。
ただの束縛癖、そう言われてしまえば終わりだけれど。
「ああ。大した事ないから」
目の前までやって来た渦中の部員数名、サッカー部ときて思い当たる人物が一人いたが、どうやら今朝は居ないらしかった。
また面倒になりかねないだけに、いないに越した事はないけれど。
不安気な視線を向ける彼らへと、柔らかな笑みを浮かべる裏側で、淡々と物事を運ばせていく。
「だから、気にせず練習に戻っていいよ」
穏やかなる笑顔を携え、心配そうに見つめる彼らを気遣いつつ、未だ気を失っている京灯を抱き直す。
「や、でも…ッ」
「俺らも手伝いま…ッ」
しかしそれでは悪いと思ってか、その場から去ろうとしない彼らは手をすっと差し伸べてくる。
「……大丈夫だから」
その手の行方を眼が追う内に、京灯へと触れようとしてきた事に気付いた時点で、言葉よりも先に起こされた行動は。
「あ、はいっ…」
自然ではあったけれど、触れられる直前にスッと制した指先は、驚く程に冷たい感情に支配されていて。
頭で考えるよりも早くに、他人からの干渉を拒絶していた。
随分と俺も、心が狭いな。
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