141 / 155
4.ポップサーカス 【9】
「…参ったな、そういえば今朝は会議か」
密やかに注がれる視線を気にする事もなく、京灯を背負い足を進め、保健室までの道のりをどうにか終える事が出来たのだが。
落ち着いていると思っていても、少なからずは急いていたらしい気持ち。
抜け落ちてしまっていた重要事項、静けさの漂う室内へと足を踏み入れ、暫しの間を経て漸く気が付く。
「…俺じゃどうにも出来ないな」
とりあえずはと、奥に備え付けられていたベッドへと向かい、ゆっくりと京灯の身体を寝かせていく。
寝顔を見つめ、ポツりと漏らした言葉の後に、見つけた丸椅子を引き寄せてはそっと腰掛ける。
「…京灯」
こういった場合、どうする事が一番の良法なのか、専門知識など当然あるわけもなく、目覚めを待つ事しか出来ない。
良かれと思い取った行動が裏目に出てしまえば元も子もない、それだけに下手な事は出来ず見守っているしか出来なかった。
「……ごめん」
それでも、誰かの手を借りたくはなかった。
こういう状況に陥る事で、改めて自分が抱く京灯への強い感情に気付かされ、その執着心を時に怖くすら思う。
いつか、この手がその身を傷付ける事になるのではと。
晒そうとしない素直な気持ちを露わにし、この時だけは心と同じ辛さを、隠す事なく表情に表し唇を開いていた。
「…ん……っ」
「…? 京灯…?」
瞼にサラりとかかる前髪、額に添えていた手を頭へと撫でつつ移していた時。
寄せられた眉と共に、唇から零された声を聞いてハッとする。
「…………」
意識を戻してくれた事に内心ホッとしつつ、徐々に開かれていく眼、行動一つ一つを逃さず瞳に入れていく。
ともだちにシェアしよう!