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4.ポップサーカス 【9】

「…参ったな、そういえば今朝は会議か」 密やかに注がれる視線を気にする事もなく、京灯を背負い足を進め、保健室までの道のりをどうにか終える事が出来たのだが。 落ち着いていると思っていても、少なからずは急いていたらしい気持ち。 抜け落ちてしまっていた重要事項、静けさの漂う室内へと足を踏み入れ、暫しの間を経て漸く気が付く。 「…俺じゃどうにも出来ないな」 とりあえずはと、奥に備え付けられていたベッドへと向かい、ゆっくりと京灯の身体を寝かせていく。 寝顔を見つめ、ポツりと漏らした言葉の後に、見つけた丸椅子を引き寄せてはそっと腰掛ける。 「…京灯」 こういった場合、どうする事が一番の良法なのか、専門知識など当然あるわけもなく、目覚めを待つ事しか出来ない。 良かれと思い取った行動が裏目に出てしまえば元も子もない、それだけに下手な事は出来ず見守っているしか出来なかった。 「……ごめん」 それでも、誰かの手を借りたくはなかった。 こういう状況に陥る事で、改めて自分が抱く京灯への強い感情に気付かされ、その執着心を時に怖くすら思う。 いつか、この手がその身を傷付ける事になるのではと。 晒そうとしない素直な気持ちを露わにし、この時だけは心と同じ辛さを、隠す事なく表情に表し唇を開いていた。 「…ん……っ」 「…? 京灯…?」 瞼にサラりとかかる前髪、額に添えていた手を頭へと撫でつつ移していた時。 寄せられた眉と共に、唇から零された声を聞いてハッとする。 「…………」 意識を戻してくれた事に内心ホッとしつつ、徐々に開かれていく眼、行動一つ一つを逃さず瞳に入れていく。

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