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7.ポップサーカス 【9】

「……ん?」 廊下も終わりへと差し掛かった頃、京灯の前を歩く存在に気が付く。 やばいな、これで更に人の居る場所へと向かわれた日には、俺一人の手には負えなくなってくる。 「………?」 それでもなかなか距離を縮める事は叶わず、自分の今の状況も人目に触れれば相当問題だなと、そこはまあ幾らでもどうにか出来る自信はあったのだが。 その内に、勢いを持って響く足音に何事かと思ったのか、ほぼ同時に先を歩いていた二人が後ろへと視線を向ける。 「…ッ!!」 近くへと迫っていた姿、まさか京灯だとは思いもしなかったのだろう、驚いた様子が窺える。 その後に、向けられた視線は俺を捉え、こうなったらと声を上げようとした時だった。 「なっ!! は、なせ…ッ!! なんだテメエら!!!」 しかし、その必要はどうやら無かったらしい。 互いに会話をする暇さえ無かったと言うのに、一目視線を投げ掛けあっただけで、息の合った動きを見せては京灯の足をまんまと止める。 「ははっ! 朝っぱらから元気だなあ!」 「…ったく」 榊と、高久だった。 「有難う、助かったよ」 漸く開いていた距離を0に戻す事が出来、目の前へ辿り着いてからまず紡いだ言葉だった。 「しっかし珍しいなあ、批土岐が廊下を走ってんのって」 「…で、コレどうした」 片方ずつ腕をとられ、両脇を固められた京灯は激しく抵抗するものの、どうにも出来ないと言う現状。 丁度良く歩いていてくれたお陰で、どうにか最悪の事態は回避する事が出来たと思う。 「ああ、実は…」 普段と明らかに違う様子に、暴れる京灯を暫し見つめてから向けられた高久の言葉に、多少は乱れていた呼吸を落ち着かせながら唇を開いた。

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