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8.ポップサーカス 【9】

「どうやら、軽い記憶喪失に陥ってしまってるらしくて」 「「記憶喪失?!!」」 息の合う二人は、ピタリと同じタイミングで驚きの声を上げる。 「サッカー部のボールが後頭部に当たって、暫く気を失っていたんだけど…」 「なるほどな、気が付いたらこうなってたっつうわけか」 今に至るまでの経緯を話し、榊からの返答に頷いて。 「シカトしてんじゃねえぞコラッ!! 離せっつってんだろがこのボケ!!」 苛立ち最高潮といった京灯は、どうにか逃れようと足掻いている。 「やっぱり、あの時点で…」 荒々しい態度をとる京灯を見て、意識を手放した時点で病院へと向かう手配をしてもらった方が良かったのだろうかと、今更ながらの言葉が浮かび上がってくる。 「病院行ったところで、どうにかなる事でもねえよ。この場合」 「…高久」 「一時的なもんだ、…きっとな」 高久なりの気遣いを窺い知る事が出来て、勘の良さと落ち着いた口調に、心が和らいでいく。 「記憶喪失っつっても、どの程度のなんだ?」 「自分が誰かは分かるけど、他は全く。てところかな」 視線を榊へと移し、問われた内容に対する答えを静かに紡いでいく。 恐らく、この二人が誰なのかも、今の京灯には分からない事なのだろう。 「しっかしまた、よりによってなあ~!」 注がれる視線は京灯へと集中し、当の本人は騒ぎ立てている中での、含みを持って言われた一言。 「……これじゃまるで」 後に続く高久の言葉、導き出される事柄は同じらしい。 「…あの頃の、か」 手のつけようもない程に荒れていた、あの頃そのものと言える状態に、ひょんな事を切欠に呼び戻してしまっていた京灯。 感じた印象は、やはり二人も変わらなかったらしい。

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