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9.ポップサーカス 【9】

「この状態でなあ、ココに居んのもマズいだろうし」 京灯へと視線を送りながら紡がれた言葉に、確かにと頷いて。 今の京灯を支配しているその人格は、過去にもう多くの人間に確認されている。 まだ京灯の事を良く思っていない存在も居るだろう中で、出て行ったところで説明の余地も無く、誰もがあの頃に戻ってしまったと考えるのが普通。 葛藤も数多くあったはず、それでも本来の素直さや社交性で築かれた折角の繋がりを、何も知らないところで勝手に崩されれば後にどれだけ傷付くだろう。 それでも決して弱みを見せようとはしないだろうけれど、つい先程まであったはずの居場所を失ってしまえば、どれだけの喪失感に襲われるか計り知れない。 それこそ、またあの頃に戻りかねない。 「なんかねえもんかな、元に戻す方法は」 「思い浮かぶ限りでは、同じ衝撃を与える…とか」 「…激しい治療法だなオイ」 榊の言葉に思考を巡らせて浮かび上がった事を口に出してはみたものの、ボソりと後に続いた高久の声で振り出しに落ち着く。 「だから!! シカトこいて話し込んでんじゃねえぞコラッ!!」 滅茶苦茶に暴れる京灯、とっくに我慢の限界が訪れていたらしい。 「いつまでも掴んでんじゃねえぞ気色わりいな!! テメエだテメエ!! スカしてんじゃねえぞコラッ!!」 「………」 「響、とりあえず落ち着け?」 その内に標的がどうやら高久へと絞られてしまったらしく、京灯は荒い口調でもって弾丸の様に言葉を繋いでいく。 無表情でいまいち感情が窺えないものの、榊の言葉から察するに少なからずは頭にきているらしかった。 「クール気取ってるつもりか、あァ?! 一人じゃなんも出来ねんだろが!!」 「…テメエなあ」 尚も続く言葉の刃、今度はよく分かる程に高久から絞り出された声に、怒気が孕んでいる。 「オラアァッ!!」 「つ…ッ!」 「響?!」 かと思えば、両腕の自由がきかない京灯が最終的にとった行動は。

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