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11.ポップサーカス 【9】
バタバタと自己主張を繰り返す足音が、しんと静まり返るこの空間には尚の事よく響く。
時刻はとうに授業開始を過ぎていて、誰かと出会う確率はぐんと低くなったものの、まだまだ安心と言うレベルには到底至らなかった。
「んでついてくんだテメエ…ッ!!」
今日は体力を使うな、と思いつつも緩める気などない速度、いつまでもついて来る事に京灯は振り返り文句を放つ。
「さあな…ッ」
薄く刻まれる微笑み、徐々に温まっていく身体と弾んでいく呼吸。
教室の方へは向かわない事を祈りつつ、ほんの少しずつではあるが距離を狭めていく。
「クソ…ッ!! うぜえ!!」
思えば、自分に対してこんな態度をとる京灯は初めてで。
過去の彼がどういう人間だったのかは知っていたが、その当時は殆ど関わり合いになる事などなかったから。
時を同じくしても、全く別へと向いていた視線、それが当たり前であり普通だった。
「…北側へは行かないで欲しいな…っ」
あの頃の京灯、きっと間近に居た榊や高久の方がずっと、俺なんかより詳しく知っているだろう。
自分から面倒事に飛び込んで行く様な、そんな馬鹿な真似はしたくなかった俺には、一生関わる事もなく終えてもおかしくはなかった相手。
だが、総ては過去だ。
「成山…ッ!! 行くな!!」
北に位置する校舎が言わばメイン、どの教室でも今は授業が行われているだろう。
左へ渡り廊下を行くか、右へ階段を進むか。
有無を言わさずリセットされてしまった関係、分かれ道へと差し掛かる京灯に向けて、気付けば声を張り上げていた。
「……ッ!!」
一度左へと行き掛けたところを、何を思ったのか無意識的に方向を変えた足は、そのまま階段へと消えて行く。
「ッ……」
まだ、幾らでもこの状況を変えられる。
うっすらと額に汗が滲んできたところで階段へ辿り着き、迷う事なく上に向かう。
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