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12.ポップサーカス 【9】

「…成山、か」 名字を呼び捨てたのはどれ位ぶりだろう。 自然と唇から零された声に、懐かしさよりも新鮮に感じている気持ちのほうが大きかった。 俺が京灯と言う存在を気にし始めたのは、ガラりと雰囲気が変わってからの見慣れた彼になってからではなくそれ以前、今ではあの頃と言われる様になっていた時で。 自分が他者に対して興味を持つなんて、可笑しい程に珍しい事だった。 全部を拒絶していた全盛期の頃の京灯にではなく、それからほんの少しだけ落ち着いてきた時だったろうか。 分からないだろうな、知るはずもない過去の断片。 「く…ッ!」 こんな事位で、俺が手放せるとでも思っているのか。 誰に宛てるわけでもない言葉が、ふと脳裏をよぎる。 とにかく上へ向かう事だけに意識が捕らわれてしまった京灯、そこへ必ず舞い降りる終わり。 「…やっと、追い付いた…」 行き止まり、残念ながら現在は封鎖されている屋上への扉、ガチャガチャと言う音ばかりが鼓膜を揺さぶってくる。 こんなにも走ったのは、久し振りな気がする。 「なんなんだよテメエ!! さっきからしつけんだよ!!!」 ゆっくりと最後の階段を上がって行けば、振り向いた京灯が扉を背にし、睨んでは荒く言葉を浴びせ掛けて。 「来んな!!! どっか行け!!!」 構わずに距離を縮め、京灯はなんとかして逃げようと視線を彷徨わせる。 「どけっ!!!」 そして行き着いた答えとなったのは強行突破、無理やりに道を拓こうと試みたが叶わず終わる。 大体、ここまできてそう簡単に俺が逃がすとでも思うのか。 「…っにすんだよ!! 離せ!! なんなんだよテメエはァ!!」 すり抜けようとしたところで腕をとり、そのまま抱き込めば激しい抵抗が始まって。 「ほっとけよ!! なんで構うんだよ俺に…ッ!!」 何処か辛そうにもとれる口調、腕の中で暴れる京灯を落ち着かせ様と試みるが、なかなかそう上手くはいかない。

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