150 / 155
13.ポップサーカス 【9】
「どうせ…っ!! また勝手に居なくなんだろ!!!」
「………?」
どうにも混乱の一途を辿るばかりの京灯、そんな中聴覚へと刻まれた一言に疑問を抱く。
一体、何に対しての言葉なのか。
「どけ!!! もう誰も!! 俺にかまうな!!!!!」
「つっ…!」
一瞬奪われた思考は隙を生み出し、容赦なく振り絞られた力は俺から逃れる事を許してしまう。
「あっ……」
けれどそれは、同時に不意の出来事をも生み出す結果となる。
「京灯…ッ!!」
勢い良く飛び出した身体は段差を見落とし、そのまま放り出されバランスを完全に失う。
頭で考えている暇など一刻として無い、とっさに伸ばされた手が、その腕を掴んでいた。
「……ッ!!」
無防備な身体をしっかりと抱き締め、当然の事ながら自分も階下へと落ちる羽目となり、総ての衝撃を一人で受け止めた。
「ぅ…っ」
次々に襲い掛かる打ちつけをなんとかやり過ごしたところで、踊り場へと落ちた際にでも強く頭をぶつけたのか、意識が朦朧と定まらない。
「…な、んで…」
腕の中に居た京灯がゆっくりと起き上がり、戸惑い気味に言葉を並べる。
「おい、しっかりしろよっ」
──こんな時に。
俺もまだまだ、ツメが甘いな。
「おい!! おいって!!」
折角ここまできたのになと思うものの、どうにも抗えない事態らしい。
薄れゆく意識の狭間で、自分を呼ぶ京灯の声が、聞こえた気がした。
ともだちにシェアしよう!