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13.ポップサーカス 【9】

「どうせ…っ!! また勝手に居なくなんだろ!!!」 「………?」 どうにも混乱の一途を辿るばかりの京灯、そんな中聴覚へと刻まれた一言に疑問を抱く。 一体、何に対しての言葉なのか。 「どけ!!! もう誰も!! 俺にかまうな!!!!!」 「つっ…!」 一瞬奪われた思考は隙を生み出し、容赦なく振り絞られた力は俺から逃れる事を許してしまう。 「あっ……」 けれどそれは、同時に不意の出来事をも生み出す結果となる。 「京灯…ッ!!」 勢い良く飛び出した身体は段差を見落とし、そのまま放り出されバランスを完全に失う。 頭で考えている暇など一刻として無い、とっさに伸ばされた手が、その腕を掴んでいた。 「……ッ!!」 無防備な身体をしっかりと抱き締め、当然の事ながら自分も階下へと落ちる羽目となり、総ての衝撃を一人で受け止めた。 「ぅ…っ」 次々に襲い掛かる打ちつけをなんとかやり過ごしたところで、踊り場へと落ちた際にでも強く頭をぶつけたのか、意識が朦朧と定まらない。 「…な、んで…」 腕の中に居た京灯がゆっくりと起き上がり、戸惑い気味に言葉を並べる。 「おい、しっかりしろよっ」 ──こんな時に。 俺もまだまだ、ツメが甘いな。 「おい!! おいって!!」 折角ここまできたのになと思うものの、どうにも抗えない事態らしい。 薄れゆく意識の狭間で、自分を呼ぶ京灯の声が、聞こえた気がした。

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