151 / 155
14.ポップサーカス 【9】
「……ん…」
過ぎていく風が、心地良く頬を撫でていく。
それを機に、次第に薄れていた意識にまた鮮明さが戻っていって。
「おい…ッ!」
うっすらと開いた瞳、視界がぼやけていた中で聞こえた気がした声、それは覚えのあるものだった。
「……き、みは…」
暫し彷徨わせた視線の末、映り込んだ姿に焦点を合わせ、少しずつ露わになっていく形。
「……ずっと、いてくれたのか…」
心配そうな顔をして見つめていた人物、そこに居てくれたのは京灯だった。
それに気付いてから、意識を失うまでの流れを一つずつ、ゆっくりと思い出していきながら身を起こして。
「…っ、…そうか」
鈍い痛みが駆けたところで、こうなるまでの過程をしっかりと総て整理し終えて。
強く頭を打った様な気がしたが、記憶を失う事にはならず、まずそこに安堵する。
自分が誰かは勿論、すぐ側で不安げな瞳を向けている彼が誰でどういう存在なのか、すんなりと頭に浮かばせる事が出来た。
「…死んだかと思った…ッ」
「…大袈裟だな」
そして何を言うのかと思えば、本人は至って真剣なんだろうけど、クスッと笑ってしまいそうになる言葉で。
あの程度で死んでなんていられないよ、穏やかに微笑みながら視線を合わす。
「…だって、お前全然動かねえし…俺、何回も呼んだのに…ッ!」
「……」
今にも泣き出しそうに、揺れる瞳は本当に俺の身を心配してくれていて。
「怪我、してない?」
「するわけねえだろ!! 大体お前が…ッ!!」
記憶はまだ戻ってはいないようだけど、随分と棘が先程よりも少なくなった様に感じて。
俺への警戒心が、和らいだ印象を受けた。
ともだちにシェアしよう!

