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15.ポップサーカス 【9】
「お前まで…居なくなったら…」
「………」
含みを持った言葉、気を失う前にも何かに疑問を抱いていた気がする。
「……此処は」
ふと京灯から視線を外し見渡せば、ずっと階段下と思っていたがまるで違っていて。
すぐ近くにある、多目的室の中へといつの間にか場所を変えていた。
どうりで風も通るし床には絨毯が敷かれ、何か柔らかかったわけだ。
「有難う、…成山くん」
京灯と言いかけたところをなんとか制し、関係する以前の呼び方へと戻す。
「…違う、…全然違う…」
「…ん?」
言われた通り名前を口に出さないよう心掛けてみれば、張本人は不満げな顔をし、ポツりと何か呟いてくる。
「つ…ッ! こ、こまで…出かかってんのに…!! ちげえだろ、そんな呼び方じゃねえだろ…ッ!!」
「…京灯……」
後に続く言葉は苦しそうに、記憶を探れど鈍い痛みに邪魔をされ、後一歩へ繋ぐ決定打が出てこず苛立ちを見せる。
そんな痛々しい姿を見て、堪えたはずの名をアッサリと、気付けば口に出してしまっていた。
「…そ、うだ……それだ…ッ」
一瞬の間を開けて、ハッとした表情を向ける京灯の中で何か手応えがあったらしい。
「誰だよお前…っ、一番……忘れたくねえのに……ッ」
「……」
京灯と言う呼び方が一番すんなりと耳に入ったまでは良かったけれど、その先へと進めない事に込み上げてくるもどかしさ。
知っているはずなのに、分かっているはずなのに、思い出す事の出来ない苦しさ。
「…ッんでだよ、なあ…なんで、お前と居っと安心すんだよ…っ」
「…京灯」
「思い出せねえ…ッ!! 知ってるはずなのに!! ずっと…ッお前のこと…!」
パニックに陥ってしまった京灯は頭を抱え、もどかしさ憤りの狭間で何処までも一人苦しみに堕ちる。
余りに痛々しくて、余りに愛おしくて、力強くその身体を引き寄せていた。
「いいよ、別に」
「いいわけねえだろ…ッ!!!」
思い出せない苦しさは並大抵の事ではないだろうけど、それならまた1から俺の事を知っていってもらえばいい。
何度でも俺は、その意識を捕らえてみせるから。
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