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2.恐怖、そして快楽

 いつの間にか、アルマは薄暗い部屋の中で怯えていた。  どうして、どうして……!  椅子に縛りつけられ、身体が動かない。言葉を吐けないように、枷もつけられてしまった。鉄の嫌な味が口の中に広がっている。腕や手を動かせないように金属の拘束具をはめられ、どうしようもできない。目の前には、のっぺりした鉄の仮面を被った存在がいる。その手には、太い針が握られていた。鉄の仮面が、針を持って、近づいてくる。アルマの首筋に針が向けられ、近づいてくる。  痛いのは嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。  拒絶の言葉を吐きだそうとするも、叶わない。針はもうすぐそこまで迫って――そこで目が覚めた。  普通なら、安心できる目覚め。悪夢から逃れられたのだと、安堵する目覚め――だが、目覚めの瞬間に、アルマは更なる混乱の渦中に叩き落とされていた。 「ッ――!」  布団が剥ぎ取られ、誰かが自分の上に圧し掛かっている。辛うじて動かそうと思った両手は頭上で纏められ、圧倒的な力で押さえつけられていた。金に光る双眸がアルマを見下ろしている。突如として放り込まれた恐怖に、アルマは声も出なかった。 「ああ、起きてしまったね。折角バレないで済むと思ったんだけどなあ。」  聞き覚えのある声に瞠目する。怪しく光る金の双眸が、鼻先にくっつきそうなほど近くにきた時、ようやく相手の顔を視認出来た。アルマは恐る恐るその名を呼ぶ。 「る、ルイスさん……?」  ルイスはニッコリと笑った……と思う。 「ごめんね、アルマくん。ボクも、お腹が空いているんだ。人間の食べ物だけだと補えないものがあるからね。だから、君を頂戴?」 「――!」  その言葉で察した――ルイスは、異形の存在である、と。 「嫌だ……殺さないで……!」  必死に身体を動かすが、押さえる力が強すぎて叶わない。そんなアルマを見て、ルイスは楽しそうに言う。 「殺さないよ。折角の獲物なんだ。死なせたりしないよ。」 「え……?」  アルマは拍子抜けしてルイスを見る。しかし、ルイスはアルマを押さえつけるのを止めない。 「さあ、もういいよね? 君を、頂戴?」  そう言うと、ルイスはアルマの首筋に歯を突き立てた。 「イッ……ア……」  心臓が止まると思うかと思うほどの痛さに、思わず声を漏らすが、喉が引き攣れて叫ぶことはできない。かまれた箇所を舐められる感触があって、アルマは血を啜る異形の話を思い出す。  ルイスさんは、吸血鬼――アルマは痛みに呻きながらも、そんな思考が頭を過った。だが、やがて思考を巡らせている場合ではない事態になる。 「はぁ……あっ……」  身体が、熱い。痛みが薄れてきて、呻き声を漏らさなくなった代わりに、荒く呼吸をし始める。身体から力が抜け、思考回路が鈍っていく。その間にも傷となっているだろう場所は舐め取られ続けて、おかしな気分になりそうだ。  しばらくして、満足したのか、首筋からルイスが離れていく。両手の拘束も解かれて、アルマは、ぼんやりとした頭でルイスを見た。 「今日の所はこれくらいかな。傷は塞いであげるよ。」  ルイスは血を啜っていた箇所をなで、目を細める。 「さて、ボクの食事は終わったけど……君の世話もしないとね。」 「やっ……!」  シャツのボタンに手をかけられる感触がして、アルマは不安げにルイスを見た。ルイスは笑っている。 「大丈夫。痛いことはしないよ。」  ルイスはボタンを外して、アルマのシャツを肌蹴させた。不安と痛みで涙を浮かべるアルマの耳元に、ルイスは口を寄せて囁く。 「『気持ちいいこと』だけ……してあげる。」  ルイスの手が首筋に触れて、アルマは身体を震わせる。その指先は鎖骨をなぞり、右胸に触れ、飾りに辿り着くと、くすぐるように動く。 「あっ……」  じわりと滲んだ未知の感覚に、声が漏れる。ふわふわとした感覚の中で、急に身体の中の芯を擽られた気がして、何とも言えない気分になる。 「へえ……ここが良いんだ。女の子みたい。」  ルイスは、片方の胸の尖りを弄ぶように指先を動かす。その度、アルマはビクビク震えて声を漏らす。 「もっと……気持ちよくしてあげようか?」  少し色っぽい声で囁かれたかと思うと、もう片方の胸の尖りが優しく食まれた。 「ひゃっ……ああぁっ……!」  アルマは電流が走ったように大きく震えて、甲高い声をあげる。ルイスは舌先で転がす様に粒を舐め、もう片方の粒は爪を立ててカリカリと擦るように愛撫する。アルマは更なる感覚に声をあげ、胸元にあるルイスの頭を離そうとするが、力が入らなくて手を添えるだけになってしまう。 「ひぁっ、やああぁっ……んんっ……!」  思考が鈍っているアルマは、単純に未知の感覚から逃げたがる。しかし、ルイスはそれを許さない。口を離して、アルマの瞳を見つめると、言い聞かせるように優しく囁く。 「ほら、逃げないで。これは、『気持ちいいこと』だよ。」 「気持ちいい……こと……」  未知の感覚に翻弄されて放心状態のアルマは、ルイスの言うことを素直に復唱する。 「そう。『気持ちいいこと』だ。堪えないで、受け入れて?」  ルイスは唾液で濡れた片方の胸の尖りを捏ねる様に摘み、もう片方の胸の尖りを食む。ぬるりとした感触が、両方の胸に伝わり、じわりと意識し始めた快楽にアルマは悶える。 「はあぁ……んんっ……」  ルイスは胸から口を離すと臍へ舌を這わせ、胸の両方の尖りを弾くように愛撫する。アルマは堪らず身を捩るが、身体は思うように動かない。逃げきれない快楽に生理的な涙を流す。 「ひゃっん、やぁっ……やだぁっ……」 「嫌、じゃなくて、イイ、だよ……もっと感じて……?」  ルイスは指先で舌を這わせた跡をなぞり、もう片方の手で服越しにアルマの膨らんでいる局部に触れた。ピクンとアルマは震えるがルイスは気にする様子もなく、アルマのズボンと下着を脱がし、目的のものを露出させる。 「……!」  アルマは瞠目して緩く立ち上がっている分身を見つめた。そして上気した頬を更に赤くし、涙を更に滲ませ、両手で顔を覆う。 「やだぁっ……見るなぁ……!」 「どうして?」  ルイスがそっとアルマの分身を指先でなぞると、ピクンとアルマが震える。 「ふふっ……可愛いなあ……」  ルイスは少し笑い、アルマの両脚をつかむと左右に広げ、自身の膝を割り込ませた。 「やっ……」  戸惑い気味にアルマが声を漏らすが、ルイスは構うことなくアルマ自身を軽く握る。ぬるりと濡れていると分かり、ルイスは面白そうに目を細めた。 「へぇ……精通はしているんだね。」 「な……に……?」  アルマが戸惑いがちに、不思議そうに尋ねるのを聞いて、ルイスは納得したように頷いた。 「ふーん、知らないか……まあ、君の置かれていた環境を考えれば無理もないね。いいや。今は『気持ちいいこと』だけすればいいんだよ、アルマくん。」  そう言うと、ルイスは握ったアルマの分身を扱き始める。ぬめるそこは、滑らかに手による摩擦を受け入れる。 「あっんんっ……」 アルマは口元を押さえながら、快楽に蕩けた瞳から涙をボロボロ流す。ルイスは何か面白いものを見たかのような笑みを浮かべた。 「弄った経験がないわけではなさそうだね……自分でしたのかな?」  最後の一言は耳元で囁かれて、じわりと滲んだ感覚に、アルマは身を捩る。 「やっ……」 「あ、少し硬くなった。図星かな。」  ルイスは楽しそうに言うと、更に速くアルマ自身を扱く。 「やぁんっ、んっ、んんっ、んんんっ!」  アルマは必死に口元を押さえるが、力が入らないせいで嬌声が漏れ出てしまう。 「『気持ちいいこと』だから、我慢なんてしなくていいのに。見つかる恐れもないんだ。ほら、声を出してごらん?」  ルイスはアルマの両手首を片手で纏めて掴むと、再び、アルマの頭上に押さえつける。その間にも、アルマ自身は扱かれていて、アルマは嬌声を抑えることなどできるはずもなかった。 「ふぁあっ、んんっ、んああぁっ!」  涙を流して甘い声で啼き、ルイスの意のままに弄ばれる。弄られたアルマ自身は固く張りつめて、そろそろ限界だ。その頃合いを見計らってか、ルイスはアルマ自身の鈴口に軽く爪を立てる。 「ああああぁぁぁ――」  襲い来る快楽の奔流に抗えず、アルマは絶頂に達した。  そして、その後の記憶はない。

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