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3.突きつけられるもの

「ん……」  首元が寒くて、アルマは目を覚ました。身体がだるい。未だ眠気を振り払えず、布団を肩の上まで被せ、もう一度眠ろうと寝返りを打った。布団の柔らかな感触が首に触れ、アルマは心地好い気持ちだった。  ……首? 「ッ――!」  そう思った瞬間、夜中の夢か現か解らない出来事を思い出す。眠気は、一気に吹き飛んだ。勢いよく起き上がり、自分の首元に触れる。 「……?」  首に異常は感じられないが、服に違和感があり、慌てて自分の身体を見下ろした。昨日身に着けた服とは違う服をアルマは身に着けている。どこかに鏡はないかと辺りを見回し、ベッドの隣の台に手鏡が置いてあるのを見つけて、それを手に取った。鏡で自分の首元を映す。 「……?」  夜中に傷つけられたはずの首に、傷はない。しかし、今アルマが身に着けている服は、大きく胸元まで開いた服である。女物であることは理解できて、複雑な気分になった。そして、鎖骨の下あたりに、親指大の、黒いバラのような印があるのに気がつく。アルマは思わず、その印に触れた。擦っても取れる様子はなく、少し嫌な気持ちになる。 「……。」  何となく夜中の出来事が原因な気がして、落ち着かない。同時に、おぼろげながらも痴態を他者に曝したことを思い出し、顔を赤くする。手鏡をそっと台に戻して、パタンとベッドの上で横になる。 「夢……だった……?」  正直なところ、夜中の出来事が夢か現実か理解できない。血を吸われたはずの傷跡は、残されていない。だが、眠りにつく前とは異なる事もあるのだ。確証が得られないまま、アルマはかまれたはずの首筋に触れる。 「アレは……どっち……?」  アルマは怖さと不安から逃げるように目を閉じる。夢であればいい。吸血鬼の話から勝手に連想してしまったのだと思いたい。そう考えていたら、ガチャリと扉が開く。 「っ……!」  ビクリと震えて起き上がり、扉を開けた人物を見つめる。白いワイシャツに黒のズボンと、昨日と同じような格好のルイスが部屋に入ってきて、アルマに微笑みかける。 「おはよう、アルマくん。」  ルイスの瞳は金色ではなく、昨日と同じ、色素の薄い銀色だ。アルマは何となくホッとして、それでもぎこちなくルイスに笑いかける。 「おはようございます、ルイスさん。」 「うん、元気な様で良かった。」  ルイスはアルマに近づき、スッと迷うことなくアルマの鎖骨の下あたりに触れる。 「印は綺麗についたね。美味しい血をありがとう。」 「――ッ!」  その言葉で、アルマは一気に氷水を浴びせられた気分になった。ルイスは固まるアルマの肩を押し、ベッドの上に押し倒す。圧し掛かられた上に見下ろされ、夜中の出来事と同じ様な状況に、アルマの恐怖感は更に増す。 「昨日は痛かったかな。どうにも、お腹が空いていたから無作法だったよ。ごめんね?」  首筋をルイスに撫でられ、身体が震える。口元は笑っているのに、目は笑っていないからだ。 「でも、折角見つけ獲物たからね。ここに居てもらうよ。」 「そん……な……!」  アルマは何とか言葉を吐きだしたが、ルイスは嘲り笑う。 「君に行く所があるのかい?」 「っ……」  アルマは更に身体を強張らせる。アルマをあやす様に、ルイスはあくまで優しくアルマの髪をなでる。 「気にかけてくれる人も家族もいなくて、今や他人からは追われる身だ。森の中を歩いて行ったって、どこかで飢え死にするのが関の山だ。いや、飢えで死ねたら、まだ良い方かな。森の中に異形が棲んでいることは、知っていたんだろう? ボクみたいに平和的な化け物はいないさ。」  ルイスは更に嘲るように、じわじわと追いつめてくる。アルマは恐怖に固まったまま、ルイスを見ることしかできない。ルイスの瞳は徐々に金色に変化し、夜中の出来事を嫌でも思い出させる。 「助けを待つかい? でも、前に言ったよね。こんな所に人は滅多に来ないし、助けなんか来ないよ。見つかりっこない。ここは隠れるのに、ちょうどいいんだ。」  ルイスはアルマの顎を掴み、顔を覗き込んで綺麗に笑う。 「だから君は、ボクに飼われる以外に生きる道はないよ。」 「……!」  瞠目して動けずにいるアルマを抱き寄せて、その首筋にルイスは口を寄せて吸いつく。アルマはビクリと震えて、慌てて離れようとルイスの胸を押すが、びくともしない。そればかりか、首筋にぬめりとしたものが這う感触がする。アルマはじわりと滲んだ感覚から逃げるように身を捩った。 「やっ……やだぁっ……!」 「大丈夫。痛くないから。だから、血を頂戴?」  ルイスは宥める様に言うが、アルマには余計に恐ろしげに聞こえる。そんなアルマに構うことなく、ルイスは歯を突き立てた。 「っ……!」  アルマは覚悟して身を固くしたが、昨日ほどの痛くなくて拍子抜けする。同時に、嫌でも覚えてしまった感覚が、じわりと身体を支配していくのに気付いて、アルマは声をあげた。 「あッ……あ……やっ……」  身体から力が抜け、思考回路が鈍くなる。ある程度血を吸って満足したルイスは、快楽で力が抜けているアルマを抱え、言い聞かせた。 「本当はね、作法を守れば血を吸われるのは『気持ちいいこと』なんだ。いつもは女性からもらうのだけど、戦争と流行病で飢えるのは化け物も同じでね。だから、しばらく君を飼うことにした。」 「や……」  恐怖と快楽が綯い交ぜになって、混乱しながら涙を流すアルマに、ルイスは優しく微笑みかける。 「大丈夫。飼う以上は責任を持つよ。生活には困らせないし、飼っている間の命を保証してあげる。ちゃんと世話もしてあげるから。こんなふうに、ね。」 「あっ……!」  胸の尖りを服越しになでられて、アルマは声を漏らす。夜中の出来事が頭の中に蘇り、不安と無意識の期待に瞳を揺らす。ルイスはニッコリ笑った。 「さあ、世話してあげるよ。」  アルマを優しくベッドの上に下ろし、その形の解る胸の尖りを、指先で愛撫する。 「あぁっ……やぁっ……!」  ビクビク震えて声を漏らすアルマを見降ろし、ルイスは楽しそうに笑う。 「うん、昨日より感じやすくなったみたいだね。やっぱり作法は守らないといけないな。」  ルイスが指先で擦るようになでると、更に嬌声が漏れた。 「うぅんんっ、やぁあっ、ああぁぁっ!」 「でも、吸血の影響があるにしても、ここがこんなに感じるなんて、やっぱり女の子みたいだね。」  ルイスは手を離すと、アルマの服の裾を捲り上げるように手を差し入れて、そろりと脇腹を擦る。 「ふぁあっ……」 「そうそう、堪えないで、受け入れて?」  声が抑えられないアルマを見て、ルイスは笑みを浮かべる。アルマの服を胸が見える位置まで捲り上げ、ルイスは口を寄せた。 「昨日も気持ちよさそうだったし、また口でしてあげる。今度は吸いながら舐めてあげようか。」 「やっ……」  アルマが涙を流し、言葉にビクリと反応するのを見て、ルイスは更に楽しげに笑うと、アルマの片方の胸の尖りに吸い付いた。 「ひゃああぁぁっ!」  アルマは目を見開いて更に甲高い嬌声をあげる。片方は乳輪ごと吸われ、先端を舌先で転がされ、もう片方も指先で摘まれたり爪を立てられたりして、酷い快感が身体中に走る。アルマは処理しきれない快楽から逃げようと、目を閉じて頭を振った。 「やああぁっ、あぁぁっ、あうぅぅっ!」 「ふふ、かわいいなあ……」  胸から口を離してルイスは呟くように言うと、もう片方にも吸い付く。先程と同じ様に吸われ、更に先程吸われた尖りも指先で弄ばれて、アルマの身体はビクビクと震える。 「ひゃうぅんんっ、ああぁぁっ!」  身を捩りたくても思うように動かず、シーツに額を擦りつけるように悶えて、やりすごそうとする。ルイスは身を起こすと快楽に蕩けたアルマを見下ろし、ニッコリと笑う。 「とっても感じているね。もう、ここが可哀想なくらいだ。」 「ひうぅっ……!」  布越しに立ち上がった自身をなでられ、アルマはビクリと身体を揺らす。 「胸だけでこんなになるなら、直接触るとどうなるかな?」 「ひっ……!」  ズボンに手をかけられ身を強張らせるが、力の入らない身体ではどうすることもできない。呆気なく下着ごと脱がされてしまう。露出したアルマ自身は固く張りつめて、先走りで濡れている。その様子が明るい室内で良く分かってしまうから、昨日より働かない頭ながらも、上気した顔をアルマは更に赤くする。 「やぁっ……!」 「明るいと君にもよく見えるね。さあ、楽にしてあげる。」  ルイスはアルマの竿にそっと触れて扱き、もう片方の手で亀頭部分をなでるように刺激する。胸で感じた以上の快楽に、アルマは泣きながら喘いだ。 「やあぁ、ああぁぁっ、ああぁ、あぁぁっ!」 「可愛く啼いてくれるんだね。そろそろイきなよ。」  ルイスが与える刺激を強くするから、アルマは迫り来る快楽の奔流に抗えない。アルマの身体はルイスの思うままだ。ルイスは亀頭をなでながら尿口へ指を這わせ、指先でぐりぐりと刺激する。 「あぁああぁぁ――」  アルマはその刺激で達してしまい、白い蜜を吐き出してしまった後は、ぐったりとしてベッドの上で荒い息を吐く。ルイスが満足そうに笑っているのを見ながら、アルマは段々意識が薄れていくのを感じた。 「もう一度寝るといい。流石に貧血になるから、良いものを後であげる。今は、お休み。」 「ぁ――」  アルマは声を漏らすも、何も言えないまま目を閉じた。

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