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13.読書

「……。」  朝日が差し込む部屋の中で、アルマはベッドの中で目を覚ました。しばらくボーっと天井を見上げていたが、眠る前に自分がやろうとしたことを思い出して、飛び起きる。慌てて本の山を確認し、白い日記があることに安堵した。 「あの人は、気づかなかったのか……。」  机の上に突っ伏して眠ってしまったところまでは記憶があったが、ベッドの中に移った記憶はないのだ。おそらく、アルマが逃げ出す前の時と同じように、ルイスがベッドに寝かせ直したのだ。それはつまり、ルイスが部屋に入ってきたということで、アルマが日記を持ち出したと、気づく恐れがあったということだ。ここに日記があることから、ルイスは気づかなかったのだろう。だが、もし気づかれていたら……ということに初めて考えが及び、アルマの顔は青ざめた。 「……。」  日記は普通、自分以外の存在に読まれることを想定していないものだ。勝手に読まれて気分が良いものではない。勝手に持ち出されていることが分かれば、普通は怒る。何を考えているのかよく解らないルイスでも、怒って怒鳴る可能性はあるし、怒りのあまりにアルマを懲らしめようとするかもしれない。早く日記を元の場所に戻した方が良いのではないかと、アルマは思う。  だが、おそらく日記には、どの本よりも具体的な情報がある可能性が高い。ここで情報を得る機会を逃してしまったら、きっと森を出る時期が遅くなる。 「……。」  アルマは白い日記を机の引き出しに仕舞い込んだ。持ち出していることが分かりにくいように、一目では分からないように、机の引き出しに隠した。たったそれだけのことだというのに、とても緊張する。どこか後ろめたく思えて、目を閉じて深呼吸する。  ガチャリと、扉の開く音が部屋に響いた。 「っ……」  アルマはビクリと震えて、音が聞こえた扉へと振り返る。白いワイシャツに黒いズボンと、いつもの服装のルイスが部屋に入ってきて、ニコリとアルマに笑いかけた。 「おはよう、アルマくん。」 「お、おはようございます……。」  まともにルイスの目を見られなくて、俯き気味に小さな声で挨拶をする。ルイスは気にする様子もなく、柔らかな笑みを浮かべたままだ。 「昨日は夕食を食べ損ねたし、お腹空いたんじゃないかな。朝食出来ているから、食堂においで。ボクは先に行っているから。」  優しい声で話すルイスは、それだけを言うと、部屋から出ていった。アルマはホッと息を吐き、ルイスが出ていった扉を見つめる。 「……。」  日記のことは気づいていないらしい。アルマは少し安堵すると同時に空腹感を覚える。ルイスの言う通り、夕食を食べ損ねていたせいだろう。 「お腹、空いたな……。」  一瞬、町での生活を思い出したが、頭を振って打ち消す。 「……食べに行こう。」  部屋から出ると、食堂へと歩く。その時、視界の端に動く何か見た気がした。 「……?」  視線を動かして確かめようとしたが、特に変わったものはない。アルマは首を傾げたが、すぐに気のせいだと思い直して、食堂の中へと入った。 「いらっしゃい。さあ、席に着いて。」 「……はい。」  中にいたルイスが笑って、アルマに着席するよう促す。アルマはぎこちないながらも、何とか足を動かして、席に着いた。今日も、温かく美味しそうな食事が並んでいて、アルマは少し泣きそうな気分になる。 「じゃあ、食べようか。」 「……いただきます。」  ルイスが促すまま、アルマは手を合わせて、食事に手をつける。美味しく温かい食事でアルマの心は少し安らいだ。全て食べ終わると、アルマは手を合わせた。 「ごちそうさまでした。」 「全部食べられたね。昨日は後片付けしてもらったけれど、今日は自由に過ごすといいよ。」 「えっと……でも……」  後片付けをするつもりでいたため、思わずルイスを見た。ルイスは少し困ったように笑っている。 「本が山積みだったからね。よっぽど読みたいんだろうなって思ったよ。」 「その……えっと……」  アルマは少し冷やりとしたものを感じたが、ルイスには特に他意は無さそうで、話を続ける。 「館の中だったら、本を持ち出しても構わない。館を出るなって言っている分、退屈だろうし。」 「えっと、じゃあ、部屋に戻ります……。」 「読み終わったら、元の場所に返してくれると助かるよ。じゃあ、良い時間を。」  微笑んで手を振るルイスに促されるまま、アルマは食堂を出た。自分の部屋の前まで歩くと、何となく後ろめたい思いで食堂の扉を見つめる。 「……。」  アルマは何も言わず、部屋の中に入って読書に没頭することにしたのだった。

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