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14.探し物、そして遭遇

「歴史書は粗方読んだかな……。」  アルマは大雑把に本の中身に目を通して、持ち出した地方史や郷土史の中身をチェックし終えた。解った事といえば、この辺りの森にはかなり古くから魔物が潜んでいる事と、血を啜る異形の噂は三百年前くらいから伝えられているという事。ルイスのことが思い出されて、少し考える。 「あの人、すごい長生きなのかな……。」  少なくとも、アルマの知る吸血鬼はルイスしかいない。血を啜る異形が他にもいるなら、それは、とても恐ろしいことだ。用心しなくては、という気になる。 「……本、返しておこうかな。」  山積みの本を見て、書斎の本棚へ本を返しに行くことに決めた。一気に持って行くと時間と労力を消費するからだ。 「よいしょ、と。」  地方史の本と郷土史の本をまとめると、書斎へと向かう。扉を開閉し、書斎へと歩く中、朝見かけた何か動くものが、視界の端に映った気がした。視線を移すが何も見つけられなくて、アルマは本を抱えたまま首を傾げた。 「……気のせい?」  本を抱え直すと書斎の中へと入る。相も変わらず沢山の本が詰まった本棚が沢山あって、少し気後れしつつも本を戻すことにする。 「さて、これは……あっちかな。」  本棚の空きを見て、記憶を辿りながら戻していく。だが、なかなか記憶と合致しなくて作業が進まない。 「えっと、これはどこの本だっけ?」  悩みながら本を抱えていると、ガタンと、大きく物音が聞こえた。アルマはビクリと震えて音のした方を振り返る。音は、本棚の向こうから聞こえたらしい。 「だ、だれ……?」  アルマは恐る恐る本棚の裏側を覗く。床に何かがいたが、驚いたことに「それ」は、空中に浮かび上がったのだ。 「――ッ!」  アルマは思わず抱えていた本を落とした。小さな岩の様な「それ」は、蝙蝠の様な羽を羽ばたかせ、ふよふよと宙に浮いていて、アルマは驚きのあまり声が出ない。 「……!」  「それ」が、こちらを振り返ったとき、アルマは恐怖を感じて後退りした。丸くて赤い目が一つ、こちらを見た。 「あ、あ……」  森で化け物に襲われたときのことが思い出され、恐怖で足が竦む。そして「それ」は、真っ直ぐにアルマの元へと向かい――ガツンと壁に激突して床の上に落ちた。 「……へ?」  アルマは拍子抜けして「それ」を見る。よく観察すると、目を回して気絶している様だった。 「だ、大丈夫……?」  恐る恐る「それ」に触れる。ひんやりと冷たく、とても生き物のようには思えなかった。だが、目を回している姿が何だか可哀想になって、「それ」の身体と思われる部分をなでる。一つ目しかない顔でも何となく、表情が段々と、穏やかになっていくようで、アルマはホッと胸をなで下ろした。町にいた頃に森の近くを散策して、時々見かけていた動物に触れてみたかったことを、なんとなく思い出す。それが何だか滑稽に思えて、アルマは苦笑いを浮かべた。  パチリ、と赤い目が開いた。アルマは慌てて手をひっこめる。ジッと目が合って何となく気まずくなり、恐る恐る「それ」に尋ねる。 「だ、大丈夫?」  「それ」は丸々とした目を、更に丸くしてアルマを見たようだったが、フワッと宙に浮きあがるとアルマの胸の中に飛び込んできた。 「わっ!」  アルマは咄嗟に重そうな「それ」を抱きかかえたが、宙に浮いているせいか重さは感じない。ぐりぐりと甘えるように擦り寄っているような気がして、アルマも少し笑って「それ」をなでる。 「君、どこから来たの?」  尋ねると、「それ」は身体を動かしてアルマを見上げた。さっきは恐ろしく感じた赤く丸々とした目も、何だか可愛く思えて、アルマは微笑んで話しかける。 「君は、なんていう生き物なの?」 「ペトラ?」  聞き覚えのある声が部屋の中に響くと、「それ」はアルマの腕から抜け出て、どこかへと飛んでいく。視線で追うと、「それ」は、いつの間にか書斎の中にいたルイスの腕の中へと飛び込んでいった。 「ペトラ、ここにいたんだね。」  ルイスが穏やかな表情で、「ペトラ」と呼んだ「それ」をなでる。アルマは何となく近寄りがたく思って、本棚の陰から覗く様に様子をうかがう。だが、ルイスはこちらに視線を寄越して、ニッコリと笑った。 「アルマくん、ペトラが迷惑をかけてなかったかい?」 「っ……いいえ、大丈夫です。」  隠れているのも馬鹿らしくなり、ルイスに近寄った。 「ペトラ、というんですか、その、生き物……?」  疑問形になってしまったことに焦ったが、ルイスは気を悪くする様子もなくアルマに笑いかける。 「ペトラ、というのは名前だね。彼はボクの使い魔だ。」 「使い魔……?」  アルマは首を傾げてペトラを見つめる。丸々とした赤い目がアルマを見つめ返した。 「ボクが使役している異形、だね。」 「異形……。」  アルマはペトラを見つめて、そっと身体と思われる部分をなでる。ペトラは気持ちよさそうに目を細めたので、アルマはホッとして表情を緩めた。 「この子は、甘えん坊に見えます。」  アルマがそう言うと、ペトラはルイスの腕から浮き上がって、アルマの腕の中へと、再び擦り寄る。ルイスは驚いた表情を浮かべた。 「へえ、君に懐いているね。」 「そ、そうですか?」  アルマは何だかくすぐったい思いでペトラを見つめる。赤く丸々とした目が、不思議そうにアルマを見ているような気がした。 「そうだよ。ボク以外の腕の中に飛び込んでいくのは、見たことがないからね。」 「へえ……」  アルマは、わくわくした気持ちでペトラを抱きしめてみる。しばらくの間ペトラとふれあっていたが、アルマはハッと我に返ってペトラを離した。 「すみません、僕、まだ本を片付けている途中でした……。」  慌てて落としてしまった本を拾い集めて、本棚へ戻しにかかる。 「そう……ペトラが驚かしてしまったみたいだね。」 「ちょっと驚いただけです。」  背後から声をかけられるが、アルマは振り向くことなく本を戻す。ルイスの視線をずっと感じていたが、アルマは片づけることだけを考えて本を戻していった。 「ところでアルマくん、ボクは君も探していたんだ。」  ルイスが突然こんなことを言う。 「そうですか……御用は何ですか?」  片付けることに夢中になっていたため、普通に用向きを尋ねてしまった。だから、すぐに後悔した。 「君の血を、飲みたいんだ。」 「――ッ!」  背後に迫っていたルイスから、咄嗟に逃げようとした。だが、腕を捕らえられて、ルイスと共にバランスを崩して床に倒れてしまう。 「う……」  痛みに呻いているうちに仰向けに押さえつけられ、気がつけば逃げられない状態になっていた。金色の瞳に見つめられ、アルマは恐怖感から涙を滲ませて怯える。 「やぁ……」  そんな中、囁くような声が聞こえた。 「飢えは、きついんだ……」 「……!」  視界に飛び込んできたルイスの表情は縋るようなもので、アルマは瞠目して一瞬固まってしまった。その隙にルイスはアルマの首筋に舌を這わせ、歯を突き立てる。 「やっ……!」  少しの痛みと身体に回る快楽の予兆に、アルマは震える。血を吸われて処理された、あの日のことが思い返されて、アルマの目から一粒の涙がこぼれた。 「あっ……あ……あぁ……」  アルマの身体から力が抜ける。ルイスが血を吸い終えた頃には、アルマは震えるばかりで、もうどうにもできなくなっていた。 「世話、してあげる……」  服の裾から、ルイスの手が侵入してきて、アルマの肌をなでる。それだけで、アルマはビクビクと震えてしまう。 「ふ……あ……う……」 「ねえ、君はここが好きだよね……」  囁かれると同時に胸の尖りを指先でなでられる。 「あぅっ!」  アルマはビクンと震えて喘いでしまう。そのまま、すりすりとなでられ、アルマはビクビク震えて苦しげに喘ぐ。 「声、堪えないで……?」 「ひぅっ!」  囁かれながら、耳にぬるりと生温かいものが這う感触がして、アルマはじわりと湧いた快楽に涙を一層滲ませる。もう片方の胸にもルイスの手が這って、強く感じる快楽にアルマは喘ぐことしかできない。 「あうぅっ、うぅんっ、ふぁっ、ああぁっ!」 「可愛い……」  ルイスは鎖骨の下に唇を寄せ、所有印の上に痕をつけるように強く吸い付く。アルマは、熱く何かが注ぎ込まれるような感覚に襲われる。同時に、抗いようのない強い快楽を全身に感じ、ビクンと身体を跳ねさせて甘い声をあげた。 「ああああぁぁぁっ!」  軽く絶頂を迎えたアルマは、ビクビクと震える。ルイスは上体を上げるとアルマを見下ろした。 「はぅ……ん……」  アルマは、金色の双眸から逃れられない。思考が快楽に蕩けている中、この金の瞳が熱を帯びているように思えて、背筋にゾクリと甘い痺れが走るのを感じる。そして、金の瞳が近づいてきて、アルマに囁きかけるのだ。 「ねえ、イッたの……? 印つけられて、気持ちよかった……?」 「っ……」  囁かれる声にも甘い痺れを感じて、アルマは何も言えず、震えることしかできない。 「ここ、すごく濡れている……」 「ひっ……」  布越しに自身をなでられ、アルマは小さく悲鳴をあげる。ずるりと下着ごとズボンを脱がされて、未だ肌寒い外気にアルマは震えた。ルイスの手が、蜜に濡れたアルマ自身に触れる。 「ひゃうっ……!」  ピクンと震えて喘ぐアルマに構うことなく、その手は、アルマ自身を扱き始める。 「あっ、あ、あ、あっ……!」  アルマは直接的な刺激に素直に反応し、再び緩いながらも起ち上がる。 「ねえ、もっと『気持ちいいこと』しようか。」 「……?」  いきなり投げかけられた言葉に、快楽に蕩けた瞳で視線を投げた。ルイスの顔が白く濡れたアルマ自身に近づいて、それを食んでしまう。 「ああぁっ!」  ビクンとアルマは身体を跳ねさせる。温かくぬるりとしたものがアルマを刺激して、今まで、誰からもされた事のない感覚に、強く快楽を感じていた。 「いあああぁぁっ、あううぅっ、んあああぁぁっ!」  両脚は押さえつけられ、身体も思うように動かせない中、無意識にアルマは手を握りしめて快楽から逃げようとする。それが気に入らなかったのか、ルイスは強く吸い上げた。アルマは瞠目してビクンと身体を跳ねさせる。 「ひあぁああああぁぁっ!」  悲鳴を上げて達してしまったアルマは、ビクビクと震え、白い蜜をルイスの口内に吐き出した。その蜜を、ルイスはゴクリと飲み込む。 「ん……あ……」  アルマはしばらく床の上で荒い息を吐き、時折ピクンと震えていたが、ルイスが近寄ってきたのに反応して視線をルイスに向ける。 「ごちそうさま。」  ルイスはアルマの鎖骨の下の所有印に口づけを落とした。 「っ……」  じわりと滲んだ快楽にビクッと震えるアルマに構わず、ルイスはアルマを抱きかかえた。 「……ごめんね、アルマくん。お腹がとても空いていたから、また君に無茶をしてしまったよ……汚れてしまったし、お風呂に入れてあげる。」 「……。」  気力も体力も尽きかけているアルマは、抵抗も何も出来ないまま、ルイスに運ばれていった。

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