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15.通わないもの
「はぅっ……あっ……んんっ……」
服を脱がされた後、風呂場でアルマはルイスに洗われていた。泡まみれのタオルでなでられる度、アルマは小さく震える。アルマ自身は、緩く立ち上がって先走りを溢していて、意識のあるアルマは居た堪れない気持ちで顔を赤く染めていた。恐らく吸血後の催淫効果が抜けきっていないせいだと思われたが、快楽で蕩けた頭では考えがそこまで及んでいないのであった。
「まだ、興奮しているんだね……。」
「っ……」
ルイスが呆れるわけでも責めるわけでもなく、ポツリと呟く。それが、アルマを更に居た堪れない気持ちにさせた。
「楽にしてあげる……」
ルイスは泡まみれのタオルをバスタブの縁に引っかけると、緩く反応しているアルマ自身に触れる。
「ひゃうぅっ……!」
震えた拍子にアルマは寄りかかっていた壁からずり落ち、タイル張りの床から、仰向けにルイスを見上げる形となる。アルマは恥ずかしくなって目を閉じた。
「……。」
ルイスは何も言わずに体勢を変えて、再びアルマ自身に触れる。片手で軽く握り、快楽を擦りこむ様に扱き始めた。
「あっ、あ、んんっ……やっ……」
刺激にビクビクと震えながら喘いでいると、あらぬ所に何かが触れた気がして、アルマは声を漏らしつつも、恐る恐る目を開ける。自身が扱かれて先走りを溢している様子が真っ先に視界に飛び込んできて、アルマは顔を更に赤くした。だが、ルイスのもう片方の手がアルマの尻に触れているのも分かって、嫌な予感に別の意味で身体が震えた。アルマの後孔に、ルイスの指が触れている。
「やっ、もう……んんっ!」
拒否の言葉を出そうとするも、直接的な快感のせいで、口は嬌声ばかり紡いでいて役に立たない。
つぷ、とアルマの後孔にルイスの指が入り込む。
「やっ……そ……あっ……!」
戸惑うアルマを余所に、ルイスの指は、どんどん奥へと侵入していく。
「うぁっ……んんっ……!」
「あは……君のナカ、熱くて柔らかいね……」
押し殺したような、ルイスの声が聞こえた気がしたが、アルマは混乱して、喘ぐことしかできない。アルマ自身はすっかり起ち上がっていて、どんどん絶頂へ追いやられる。後孔の異物感にも段々慣れてきてしまい、アルマは快楽の中でも恐ろしく感じた。そんな中、ナカのルイスの指が、「ある部分」に触れる。身体中に電流が走った様な感覚に、アルマは一層身体を跳ねさせた。
「ああぁっ!?」
アルマは何が起こったのか解らないまま瞠目していたが、ルイスの獲物を狙う様な瞳が視界に入って、ゾクリと甘い痺れに似た感覚が身体に走る。
「ココ、なんだね……」
「ひゃぁぅっ、あ、あっ、んんっ!」
ぐりぐりと、その部分を押され、アルマは一層震えて、嬌声をあげる。前の方の刺激も相まって、アルマの限界は早かった。
「い、あ、あ、あああああぁぁぁっ!」
白い蜜を吐き出して、一際甘い嬌声をあげながら絶頂に達した。ルイスはアルマの後孔から指を抜く。
「アルマ、くん……」
艶やかな色を纏った、その身体を見下ろした。可愛い、愛しい、欲しい――そんな思いがルイスの中で渦巻く。
「うぅ……ひっく……」
「……!」
だが、アルマのすすり泣く声が聞こえて、ルイスはハッと我に返った。
「も……やだぁ……」
アルマはボロボロと涙をこぼして泣いていた。アルマは、良いようにされる身体も、快楽に溺れそうになる自分も、もう嫌だった。
「しないで……もう……や……こわい……」
アルマの泣く姿が痛々しく感じられて、ルイスはとても後悔した――二人の心は通っていないのだと、思い知った。
「ごめん……。」
ルイスはアルマの身体を起こし、お湯のシャワーをかけてやる。アルマの身体についていた泡も汚れも洗い流すと、軽くバスタオルで拭いてやり、バスローブを着せてアルマを抱き上げた。
ルイスはアルマをアルマの部屋まで運んでやると、アルマをベッドに寝かせた。アルマの身体に、布団をかける。
「ゆっくり休むといいよ……さっきは、ごめん。」
「……。」
ルイスはアルマからの返事を聞くことなく、部屋を後にした。アルマは何も言えずにいたが、じわりと涙が滲むのが分かって、ギュッと目を閉じる――怖い。快楽を与えてくる、金色の目のルイスが、怖い。そして、その快楽に溺れそうになる自分が、怖い。血を吸われるのが、怖い。
それでも、血を吸われる前のルイスの一言が、アルマの心に突き刺さっている。
『飢えは、きついんだ……』
飢えの苦しみは、アルマにもよく解った。母親が死んでしまった後、アルマはしばらく孤児扱いで町に住んでいた。食べ物は配給で受けとっていたのだが、戦争のせいで量は少なく、育ち盛りのアルマには足りなかったのだ。加えて、孤児になったアルマに対する、町の人の扱いは辛辣だった。食べ物を奪われることだってあったし、暴力も暴言も向けられていた。
「流行病の家の子だ。近づいたらうつされる。」
「タダ飯食らいなんか、早く死んじまえ。」
「何をしているのか分からない子。関わらない方が良い。」
戦争と流行病で町の人の心が荒んでいたのは知っていた。だが、だからといって辛いことには変わりない。アルマは傷ついた心を老婆に会うことで癒していた。優しく物知りの老婆は、アルマにとって、会ったことのない祖母の代わりだったのかもしれない。そして、老婆もアルマを孫のように可愛がっていた。色々な話をしたし、悩みも聞いてくれていた。「お腹が空いたでしょう」と言って、アルマが持ち寄った食料と、畑で取れたという食べ物を料理して出してくれた時もあった。量は足りなかったけれども、老婆と共に食事をすることでアルマの心は満たされていた。
それでも、夜中は空腹に耐えながら一人で眠っていた。だから、飢えが辛いのは、よく解る。血を吸われるだけなら良かった。痛いのは怖いが、それだけならまだ良かった。
快楽が、アルマの自我を奪うのだ。ルイスは後処理だと言っていたが、未熟なアルマには到底真面に受け止められない感覚だ。制御できない感覚に自分が自分でなくなっていく気がして、アルマは怖い。そして、ルイスの手によって、容易く弄ばれる自分の身体が、とても怖い。
「っ……」
快楽の余韻が思い出されて、アルマはピクンと震える。横を向いて自分の肩を抱き、記憶を抑え込む。だが、抑え込もうとするほど、先程与えられていた感覚が蘇ってきて、震えが止まらない。特に、後孔を弄られた感覚が――
「ぁ……」
じんわりと身体が火照っている気がして、アルマは小さく声をあげた。頬は赤く染まり、心なしか呼吸が早くなっている気がする。
「ん……」
アルマは布団を被り直す。こんな時は寝てしまうに限る。早く寝てしまえば、こんな感覚だって忘れられる。
「ぐっ……」
そう考えていると、布団の上にボスンと重さのある何かが降ってきた。恐る恐る布団から顔を出して覗いてみると、赤い目をこちらに向けるペトラが、そこにいた。
「ペトラ……?」
アルマが思わず名前を呼べば、ペトラは枕元まで飛んでくる。手を伸ばして身体をなでてやると、枕の隣に下りて、アルマの頬にくっついてきた。その姿が何だか無邪気に見えて、アルマは少しだけ気分が楽になった気がする。
「……ありがとう、ペトラ。」
アルマはじわりと滲んだ涙を堪えることなく、目を閉じて眠りの淵を探すのだった。
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