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17.気に入りすぎた
設置した魔法が作動したことで、自室で書き物をしていたルイスは、アルマが風呂場を使っているのに気づいた。ペトラが反応してそわそわしていたが、ルイスは宥めるようにペトラの身体をなでる。
「アルマくんを、気に入ったんだね。でも、多分今は行かない方が良い。何か嫌な夢を見た後だろうから……きっと、一人でいたいと思う。」
ルイスは昨日のことを反省する。柄にもなく暴走してしまった。恋情の自覚が、こんなに厄介なものだとは思いもしなかった。女性から血を頂いていた時は、何も感情など抱かなかったというのに。
「……。」
深く溜息を吐けば、ペトラが不思議そうにルイスを見る。ルイスはニッコリと笑って、ペトラに話す。
「ああ、ちょっと悩み事があるんだ……あんまり具体的に言えないけどね、ボクもアルマくんを気に入っているんだけど……気に入り過ぎたみたいだ。」
言葉にしながら、そのことを実感する。アルマは既に、ルイスの餌だ。その証である所有印も付け直した。自分が望むだけで、恐らくアルマの身体は好きにできる――身体だけ、ならば。
「……。」
ルイスは再び深く溜息を吐いた。アルマの甘美な身体を余すことなく味わいたい。今のルイスなら、できてしまう。だが、それではアルマの心は手に入らない。吸血鬼として生きるために、ほとんど捨てたと思っていた感情が、今のルイスにはある。
「半端者、か……」
遠い記憶の中の言葉を思い出し、ルイスは自嘲の笑みを浮かべる。
「まだ、人としての執着があるのか……」
万年筆を置いて、目を閉じる。
「アルマくんには、申し訳ない事をしたな。」
所有印をつける時、アルマの身体はルイスの魔力を受け入れた。吸血鬼の餌につけるためのものだったから、軽い催淫状態が続いていただろう。快楽を恐れているアルマには、とりわけ苦しい状態だと予想できた。
「……まあ、自分で何とかしてもらうしかないね。」
今ルイスが手を出せば、今度もやり過ぎてしまう。酷な事だとは思うが、ルイスが手を出してしまえば、アルマはもっと苦しむ。せめて、気分の落ち着く飲み物でも持って行けばいいだろうか。
「今は取り込み中だろうから……後でハーブティーでも作ろうか。ハーブを摘む時にでも、一緒に来てくれないか、ペトラ。」
ペトラに笑いかければ、ペトラは嬉しそうに飛び回る。
「庭に何があったかな。カモミールなら、もう花が咲いていたと思うんだけど……カモミールは咲いていたかい?」
ペトラに、最近の庭の様子を尋ねれば、ルイスを見つめて、ゆっくりと上昇と下降を繰り返す。肯定の意であることが分かっているルイスは、ニッコリと笑う。
「咲いているんだね……作るのは、カモミールティーにしようか。」
言いながら、ルイスはふと、庭と畑の手入れを最近していなかったことを思い出す。アルマが来てからは、あまり気に留める時間がなかったせいだろう。血の飢えを満たせる今、無理に町へ出る必要もないのだから、他人に誘いをかけるための嗜好品を作る必要もない。
だが、一度作った以上は、手入れをしなくてはならない。ルイスは席を立つと、ペトラを呼ぶ。
「ペトラ、庭を手入れするから一緒に来てくれないかい。ほったらかしにしていたから、少し手間がかかりそうだ。その後に、カモミールを摘もう。」
ルイスは自室を出て、ペトラと共に外へと向かう。笑ってくれるとは思わないが、自分の所為で休まらない心を、少しでも癒してくれたらいいと思った。
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