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21.愛と呪い

 アルマの身体を洗い終えると、バスローブを着せて抱き上げる。ルイスはアルマの部屋のベッドにまで運びこむと、その身体をゆっくりと寝かせた。 「んんっ……はぁ……んっ……」  まだアルマは顔を赤く染めて震えている。アルマを犯していた魔物は、俗にいうスライムという種だったはずで、アルマは催淫毒を飲まされたと思われる。ならば早く解毒しなければならない。苛立った足取りで、ルイスは水薬を取りに部屋を出た。 「先延ばしにするべきだったか……」  ルイスはアルマを置いて外出したことを後悔していた。まさか結界を貼ってある館の中に、魔物が侵入するとは思ってもみなかったのだ。元々格上の相手となるルイスに、態々刃向う異形はいない。いるとしたら、余程の命知らずか、錯乱しているか――そこまで考えが及んで、ルイスは、どこかに引っ掛かりを覚える。  スライムは、ほぼ生存本能で動く故に、ルイスの魔力を感知したら逃げていく。だから、本来なら所有印をつけられたアルマにも近づかないはずだ。だがアルマは襲われた。ルイスは嫌な予感を覚える。 「錯乱していたのか……?」  スライムが錯乱していたなら、その理由は何か。ルイスは、足早に棚から水薬を取ると、アルマの部屋へと急ぐ。もし予想通りだとしても、今は、アルマに水薬を与えなくてはならない。ルイスは、アルマの部屋に入ると、アルマの元へと駆け寄った。 「んあぅ……ふ……んんっ……」  アルマは顔を赤らめ、悶え苦しんでいる。ルイスが入ってきたのに気がついたのか、アルマは涙の滲む瞳をルイスへと向けた。 「ルイ……ス……さ……」  ルイスは苦しむアルマの口元へと、水薬を持って行く。 「この薬を飲むんだ。少なくとも、疼きからは解放される。」 「は……い……」  アルマは、唇に当てられた瓶の口から、水薬を大人しく飲んでいく。アルマが水薬を飲み終えたのを確認すると、ルイスは瓶を近くの台に置く。 「んんっ……うぅ……」  アルマは未だに震えて、太腿をもじもじと擦り合わせている。しばらくすれば、解毒が効いてくるはずだ。だが、艶めかしい色を纏った、今のアルマの身体は、ルイスにとって目に毒なのだ。早く、ここを立ち去ってしまいたい。しかし、もし予想が当たるなら、アルマを一人にはしておけない。なんとか理性で欲望を制御し、ルイスはアルマの額に手を当てた。 「アルマくん……」  ルイスは早く解毒が効くように祈り、目を閉じる。あのスライムは恐らく呪いにかかっていた。生存本能に忠実な魔物が錯乱するほどのものならば、恐らく呪いは、現在町中で伝播しているものに匹敵するはずだ。運が悪ければ、アルマもルイスも呪いにかかってしまっている。流行病と同じ呪いならば、最悪二人とも死んでしまう。それを回避するには―― 「ぐっ……!」  アルマが苦しげに呻いた。ルイスは予想が当たってしまったと絶望する思いで目を開き、そして瞠目した。 「これは……!」 「はうぅ……うぁっ……!」  幽かに、アルマの身体に白い紋が浮かぶ。アルマは先程とは別の意味で苦しそうに悶えているが、ルイスは内心救われた思いだった。白の紋は、守護の魔法。アルマは守られている。呪いから逃れられる。そして同時に、アルマを逃がした老婆の正体が解ってしまった。 「白魔女……そうか、だから君は……」  ルイスは苦しむアルマを見つめ、目を細める。アルマが慕っていた老婆は、恐らく白魔女と呼ばれる存在。白魔女は呪いから身を守る術を知る者で、ルイスが主な研究対象とした魔法を扱える者だ。  「愛の魔法」とも呼べる守護魔法をアルマに施していたことから見て、白魔女はアルマの事を相当気に入っていたらしい。守護魔法を施された者は、呪いの類から身を守ることができる。ただ、今回の呪いの強さは、尋常ではないのだろうとも解ってしまった。 「ううぅ……あぁ……」  アルマが、額に汗を浮かべて、悶え苦しんでいる。白の紋は段々と濃く浮かび上がり、かけられた呪いが強い事もうかがえる。 「耐えてくれ……」  ルイスはアルマから手を離すと、看病の道具を持ち込むために、アルマの部屋を出たのだった。

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