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22.整理がついた
「……。」
アルマは、はっきりしない意識の中で、目を覚ました。しばらくぼんやりと辺りを眺める。ルイスがアルマの手を握ってベッドに突っ伏している姿が目に入った時、アルマは顔を赤くして狼狽えた。
「っ……」
また、ルイスに助けられたのだ、と思った。
アルマはパッとルイスから手を離して、赤くなった顔を枕に顔を埋めた。はしたなくて、情けない姿を見られたのが恥ずかしい。そして、アルマが原因不明の苦しみに苛まれる中、ルイスが傍に居てくれたことが、何だか気恥ずかしい。胸がドキドキと早鐘を打っていて、アルマはギュッと目を閉じる。
何だか自分の身体が変だ。まだ、おかしな毒にやられているのだろうか。アルマはそう思って目を開けてみるが、今の自分は嫌な気分ではなくて、むしろ温かい気分で――不思議な感覚だった。
「……。」
恐る恐るルイスへと視線を向けた。眠っているらしく、険しい表情で目を閉じている。心なしか、少し顔色が悪い。
「……。」
どこか言いようのない不安が、アルマを襲う。以前にも、こんなことがなかっただろうか。何か見落としていないか。そう思ってルイスの頬へ手を伸ばそうとした時、ルイスの瞳がパチリと開いた。
「っ……!」
アルマは驚いて慌てて手をひっこめた。対するルイスは、数回瞬きして上体を起こし、アルマをぼんやりと見つめた。
「……アルマくん?」
「はっ、はいっ!」
ルイスに呼ばれ、アルマはビクリと震えて返事をする。その声でルイスは一気に目が覚めたらしく、ハッとしたように身を乗り出し、アルマに尋ねた。
「身体は何ともないかい?」
「だ、大丈夫です……!」
ルイスの勢いに押され、少々どもりながらもアルマは答える。その答えにルイスはホッとした様に溜息を吐いた。
「良かった……。」
その顔が心底安心したような表情で、また温かく不思議な気分になる。その気持ちに背中を押された様に、アルマはルイスを見つめて口を開こうとした。
「あ……」
「アルマくん、念のために今日は休んでいるんだよ。」
だが、それを遮るようにルイスは立ち上がり、アルマの頭をなでた。その手つきが優しく感じて、アルマは戸惑う。まるで、心の距離が近くなったような――
「じゃあ、ボクはやることがあるから……」
そう言って、ルイスはアルマに背を向けて部屋から出ていこうとする。
「あ、あの……!」
慌てて声をかけると、ルイスは不思議そうに振り返った。真面に視線を向けられ、アルマが緊張して続きを言えずにいると、ルイスは合点がいったように手を叩いた。
「ああ、お腹空いたよね。すぐ持ってくるから待っているんだよ。」
そう言うと、アルマに背を向ける。アルマは思わず起き上がって手を伸ばすが、ルイスはそのまま、部屋から出ていってしまった。
「あ……」
アルマは行き場のない手を伸ばしたまま、しばらく呆然と扉を見つめた。
「何を、したかったんだっけ……」
伸ばした手を胸元に当てて、アルマは目を閉じる。
「お礼……ずっと言えていない……」
今まで、ルイスに助けられていたのだと、今なら思える。血を吸われたり、恥ずかしいこともされたりした。けれども、アルマの命は、守られていたのだ。今回だって、どうしようもなくなっていたアルマを、ルイスは助けてくれた。
「怖くて、ずっと言えていなかった……」
どんな意図があるか解らないにしても、一度はルイスに、お礼の一つくらい言わなくてはならないだろう。アルマは目を開けると深く溜息を吐いて、再びベッドに横になった。
「……?」
ふと、見覚えのある岩の様なものが部屋の隅にあるのに気がついて、アルマはそっと声をかける。
「……ペトラ?」
岩のようなペトラは、フワッと浮き上がると、その赤い瞳でアルマを見た。アルマは笑みを浮かべて、ペトラに向かって腕を広げた。
「……ペトラ、こっちにおいで。」
ペトラは身体を揺らすとアルマの胸へ飛んできた。アルマはペトラを抱きしめ、その瞳を覗き込む。
「ペトラ……僕、少しだけ、あの人のこと……怖くなくなったかもしれない。」
ペトラはジッとアルマを見つめ、ぐりぐりと甘えるようにアルマの胸に擦り寄る。アルマは表情を緩めると、ペトラを抱きしめたまま、目を閉じた。
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