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#4 月下美人 2

✴︎ 少女漫画に出てくるイケメンみたいな感じで。 美島さんは、私をドキドキさせる。 眼鏡系美青年って、感じで。 眼鏡をとったら、絶対、カッコいいはずって、思ってたんだ。 最近、店に来ないんだよなぁ、美島さん。 カッコいいのに純情で、スレてなくて。 私がからかうとすぐ顔を真っ赤にしてさ。 大人なのに子どもみたいで、かわいいんだよ。 イジワル、したくなっちゃう。 だから、毎日、美島さんがあのドアから入ってこないかなぁ、って、思ってたんだ。 「......こんばんは」 そんなことを考えていたら.......。 きた!......きてくれた!美島さん! 照れたように視線を外して、高い身長を誤魔化すように背中を曲げて。 私の声で、顔が真っ赤になって。 私の手に触れると、恥ずかしそうな表情を浮かべて。 私が作ったお酒を飲むと、感じてるようにため息をつく。 美島さん......誘ってるの? だから、今日は。 今日は、美島さん眼鏡を絶対に外したかった。 本当の美島さんを見たかったんだ。 眼鏡を外した美島さんは、やっぱりカッコよくって。 予想通りで、満足したのに。 初めて......胸がチクっとした。 なんでかな......あんなに見たかった美島さんの本当の顔なのに。 苦しそうに、切なそうに私を見つめるから......。 私の心が、罪悪感に苛まれる。 私は、美島さんのこんな表情が見たかったの? こんなに苦しそうな美島さんが、見たかったの? すると、突然、美島さんが苦しそうにむせ出した。 .......美島さん!! ファサッ.....。 ........白い、キレイな。 まるでおとぎ話にでてくるような、キレイな花が。 美島さんの口から出てきて、カウンターテーブルに落ちた。 美島さんみたいな、純粋な、キレイな花。 花吐き病......? でも、そんなの気にならないくらい。 そのキレイな花と、今にも泣きそうな顔をして目を伏せている美島さんに、私は、見惚れてしまったんだ。 「.......美島さん」 「香月さん......俺を見ないで.......」 「そんなことを言わないで......美島さん」 私は美島さんの頰に手を添えて、背けた顔を私の方に向けた。 涙がハッキリしたまつ毛を濡らして。 薄く開いた口が小さく震えてて。 ..........美島さん、色っぽい。 私、美島さんが、好きかも。 ゆっくり、ゆっくり.......。 美島さんを驚かせないように、傷つけないように。 私は、美島さんに唇を重ねたんだ.......。 震える唇に、そっと、舌を割り込ませて、舌を絡める。 お酒の香りと花の強い香りがして、私は一気に気持ちが上昇した。 ...........好きかも、じゃない。 私は、美島さんが好きだ。 ✴︎ 香月さんにキスされた。 冷たくてヒンヤリした唇が、俺の唇に重なって。 さらに舌まで絡んでくるから、思考回路がショートしてしまった。 フリーズって、こういうこと言うんだな.......マジで。 香月さんは、ゆっくり唇を離した。 そして、カウンターの向こう側からゆっくり出てきて、俺の隣に腰掛ける。 「香月さん......?」 香月さんはにっこり笑うと、俺が吐き出た月下美人を手にとった........。 ダメだよ!香月さん!触ったらダメだっ! 俺の心の叫びを知ってから知らずか、手にとった月下美人の花びらを1つ、噛んだ。 香月さんが、花びらを噛みながら、俺に微笑むから......。 現実味がなくて、頭がクラクラしてくる。 「美島さん」 「........なんでしょうか......?」 「下のお名前、教えてください」 「........翔です。美島翔」 「いい名前ですね。翔.......私、あなたが好きです」 .......え?.........えーっ!? 「私はあなたが吐いた花に触れました。 もし、あなたが私をフってしまったら、私はあなたに片思いして、花吐き病になってしまいます。 だから......。 私を花吐き病にしないでもらえませんか?翔」 そ、そんなの......願ったり叶ったりだよ......。 俺だって、6ヶ月に渡って想いを寄せてきた香月さんにそんなことを言われて、嬉しくないハズがない。 ようやく、花吐き病ともお別れできるんだ。 でもさ、香月さん。 それって、かなり、交渉上手だよ........。 「........もちろん、もちろんです。香月さん」 ようやく絞り出すように声を発した俺に、香月さんはこの上ないくらい、満面の笑みを浮かべて俺の首に腕まわしてきた。 また、その冷たい唇でキスをしてくる。 「.........香月さん」 「なんでしょう?」 「俺にも......下の名前、教えてくれませんか?」 香月さんがにっこり微笑む。 「真琴です。真実の真に、お琴の琴。女性みたいでしょ?」 「いや、あなたにピッタリだ。 すごく、すごく綺麗な名前........真琴..........俺、ずっと、真琴が好きでした。 花吐き病の駆け引きなしに、俺を好きになってもらえませんか?」 一瞬、真琴が目を見開いて、驚いた顔をした。 そして、にっこり微笑む。 「もちろん、もちろんです。愛してます、翔」 俺は真琴の腰に手をまわして、その華奢な体を引き寄せた。 それに呼応するかのように、真琴が俺の肩にしがみつくようにして、体温を感じるように、より体をひっつけてくる。 なんて、なんて.......幸せなんだろう。 朝、幸せモノの千早に嫉妬していた俺を、殴りたくなるくらい。 花吐き病や月下美人が、俺から去っていったと同時に、真琴って言う、かけがえのないものがやってきて、手に入れて。 俺は真琴を壁にそっと押し付ける。 壁を背にした真琴が、かすかに呼吸を乱して言った。 「翔.......優しく......して」 「あれ?翔?なんかいいことあった?」 多分、俺は、情けないくらい、ニヤニヤしていたかもしれない。 だから、開口一番。 挨拶もそっちのけで、千早にこんなことを言われたから。 ........諸々、顔にでるなんて.......。 恥ずかしいな、俺。 だから、俺は千早の言葉を真似て言ったんだ。 「満願成就、って、とこかな?」 千早が目を丸くする。 「マジで?!」 「マジで」 「よかったな、翔!!」 「ありがとう」 もう、悩まなくていい。 花吐き病にも、月下美人にも。 6ヶ月、長かったなぁ。 ようやく、俺は日常の普通の生活を取り戻すことができたんだ。 ブーッ! ふと、俺のスマホが震える。 〝おはよう、翔。お仕事、頑張って!〟 そして、これ。 日常の普通の生活以上のモノまで手に入れてしまって、俺は幸せでしょうがないんだよ、本当。

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