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第158話
肩で息をするフィオナは、私を振り返って唇を噛んだ。
「ルシウス様、お許しください。どうしても···どうしても、この人間が許せなくて···っ!」
「······ああ。私も同じ気持ちだ。お前を咎めることはしない。だが、落ち着け」
フィオナの腕を掴み、こちら側に引いた。抗うこと無く退いたフィオナを、後ろに下がらせ、倒れた人間と目線が同じになるよう膝を折る。
「レヴァンへの侮辱は、私への侮辱へと受け止める。」
「···っ、」
「···貴様には話が通じないようだ。私が直接村人達に伝えよう。今すぐ集めろ。」
怯えながら立ち上がった村長は、外に出て人を集めて行く。私も同じように外に出て、人が集まる様を見ていた。
「こ、これで、全員です」
「わかった。」
見渡せば結構な人数がいた。怯えているその人々の中にはデニスとエレニの姿もある。
「私はルシウス。ここにいたレヴァンの夫だ。」
そう言うと途端皆がザワっとした。
「今日は話があって参った。···私の妻のレヴァンに対して行ってきた様々な悪事を、今ここで辞めると約束しろ。」
皆の声が無くなる。自然が奏でる音だけが耳に届いた。
「約束しないのであれば、私は持てる力を全て使ってでも、この村を潰してやろう。レヴァンの負った苦しみや辛さを、その身で感じればいい。」
きっと、私の言っていることは横暴で、ここの村人達からすれば何て酷な事を、と思うのだろう。けれど、許せないことはある。
いくら獣人には関係の無い人間の世界のことでも、大切な人を守るためであるのなら、どんな汚れた仕事ですらこなしてやる。
きっと、あの日のアルフレッドも、そういう気持ちであったんだろう。今になって、やっと全てを理解できる。
しばらくすると、デニスとエレニが立ち上がって、私の側に歩み寄ってきた。村人達はザワついて、その後は息を潜めてこちらを様子見する。
「ルシウス、様」
「ああ、何だ。」
「···俺達は、レヴァンに···謝りたい。今まで、散々悪い事をした。それなのに···あいつは、助けてくれた······。きっとあいつが、貴方に伝えてくれたんでしょう?」
「···そうだ。」
デニスとエレニが、ラビスに囚われていることを伝えてくれたのはレヴァンだ。
そして、助けるようにと言ったのも、レヴァンだった。
「俺達は、レヴァンにはもう何もしない。···けれど、最後に謝らせてほしい」
「······ならば、近いうちに二人を邸に招待しよう。」
「ありがとうございます」
二人は嬉しそうに固かった表情を和らげた。
そのまま二人は村人達に訴えかける。
自分たちを助けてくれたのはレヴァンなのだと。そしてレヴァンは、今まで様々な暴力に耐えて生きていたのだと。全ては、自分たちが悪かったのだと。
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