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第16話
「ルシウス、1つだけお願い事があるんだけど」
「何だ?」
豪華な食事が目の前にずらりと並んでいる。
ここに来てからはずっと綺麗に盛り付けられた豪華なものを食べてる。こんな美味しいものをいただいておきながら悪いんだけど、1つだけ我儘がある。
「野菜が食べたい」
「私は野菜が嫌いだ」
「どうして?美味しいよ!」
「私は獅子だぞ、肉を食べるのが好きだ」
「皆は!?皆は野菜食べるでしょう!?」
周りに立っていた獣人の人達に聞いてみるけどここに居たのは皆肉食系の獣人達だったようで気まずそうに首を左右に振った。
「野菜食べたい」
「···野菜は味がしない」
「たまにはそれも食べたいの!それにルシウスに食べろなんて言ってないじゃないか」
立ち上がってルシウスにそう訴えるとコクコクと頷いて「わかった、わかった」と言ってくれる。
「今晩にでも野菜を用意させよう」
「本当?!ありがとう!」
「ああ」
ナイフとフォークを持って食事を再開したルシウスを見てから俺もナイフとフォークを持ち直した。
***
食事を終えて部屋に帰る。
部屋に着いた途端「仕事がある」とルシウスは部屋を出てどこかに行ってしまった。
やることがなくて部屋の中をウロウロしたりベッドでゴロゴロしてみたり。少しは時間を潰せたけれどやっぱり暇になってしまって邸の中を探検しようと部屋の扉を開けて足を踏み出す。
「レヴァン様?」
「っうわぁ!」
誰もいないと思っていたのに名前を呼ばれて驚いて腰を抜かし地面に尻餅をついた。
「···何をされてるんですか」
「あ、ファ、フィオナさん···」
「フィオナで結構です。···ルシウス様は?」
「ルシウスなら、仕事があるって···」
「そうですか」
「あ、フィオナさん!」
それだけ言ってくるりと踵を返したフィオナさんに咄嗟に声をかける。
「大きな声を出さないでください」
「す、すみません」
冷たい目が俺を見下ろして、それからすぐに目を逸らす。
「何か?」
「俺のこと、嫌い、ですよね」
「はい、とても嫌いですが」
「···何が嫌いなのか具体的に教えてくれませんか。なるべく、フィオナさんの気に触らないように、しますので」
「あなたは何か勘違いをしておられる」
俺に向き直ったフィオナさんが怒った顔で同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。
「そもそも私はあなたが嫌いなのではなく人間が嫌いなのです。嫌いなものが大切な方の隣にいると誰だって腹がたつでしょう?」
「···じゃあ何で人間が嫌いか、教えてもらえませんか」
「ええ、いいですとも。場所を変えましょう」
俺に触ることも嫌なようで目だけで「早く立って」と言って何処かに連れて行こうとする。疑うことなんてせずにゆっくり立ち上がってスタスタと歩くフィオナさんに置いて行かれないように追いかける。
邸の中庭にある綺麗な花が咲く大きな花壇の方を向き立つフィオナさん。その後ろ姿は凛としていてとても綺麗に見えた。
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