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第44話

*** あの事件が起きる二か月ほど前、父さんが流行病で死んだ。 その病はどうやら感染をするらしくて、医者も治療法がわからないと、窶れて苦しんで死んでいく。 「レヴァン、寒くない?」 「うん、大丈夫だよ!」 母さんが小さく笑って「そう」と言って毛布に包まった。 最近母さんはずっと体調が悪くて、熱があったり咳をしたりとしんどそうだ。 そして5歳の俺は薄々気付いていた、母さんに父さんが死ぬ前に出ていた症状が現れてることを。 臆病な俺は希望を持って「ただの風邪だよ」なんて言っていたが本当はわかってる。きっと母さんは父さんと同じ死の病気にかかっていると。 「レヴァン、ごめんね」 「ううん、休んでていいよ」 畑に出ていつも通り野菜を収穫する。 額から流れた腕で拭った時、前から何人かの村人がこっちに向かってやってきた。そのうちの1人の男の人が俺を見て小さく笑う。 「レヴァン、お母さんは?」 「母さんは寝てるよ」 「そうか」 「どうしたの?」 「いや···」 苦虫を噛んだかのような表情をするその男の人は頰が少しこけていてフラフラとしてる。 「ねえ···」 「レヴァンのお父さんは亡くなる前、長い間熱を出して、咳をして、だんだんと痩せていって···」 「うん」 「···お母さんも、同じかい?」 「どうして?」 「いや、何でもない」 その人の顔は青くなって、今度は向こうの方に歩いて行った。ああ、多分···いや、きっと、あの人も同じなんだ···そう思いながら収穫した野菜を持って家に帰ると母さんが苦しそうに咳をしてる。 「母さんっ!」 「き、きちゃだめ、よ」 「でもっ」 「レヴァン、聞いて、あのね···このままじゃレヴァンもこうなっちゃう」 「な、何」 「そして、それはここの村人も同じ。空気感染をするってことは少なからず村人にも感染の危険があるのよ」 そう言って俺を見た母さんの目はとても鋭かった。

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