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第57話
今日も部屋に籠る。
好きで籠っているわけじゃないからストレスは溜まる一方で、俺にご飯を持ってくる御使いさんも、ちゃんと部屋にいるかどうか見に来るアルも鬱陶しくて仕方が無い。
これは抜け出すしかないと思って部屋の窓から外を見る。この部屋は二階だし、下には花壇があるから、ここから飛び降りても死ぬ事は無いだろうって考えて窓を開け足をかけ、ぴょいっと飛び降りた。
────つもりだった。
「ジーク」
「···あ、アル」
「何してるんだ」
「···そ、空が綺麗だなって」
アルの小脇に抱えられ、体が宙に浮いたまま、そんな会話をする。今の何も考えないで言った言い訳だと確実に俺がどうしようとしていたのかがバレた筈。
ああこれはやばい、確実に怒るだろう。
「アル、怒ってる?」
「怒らない理由が何処にある」
ベッドに連れて行かれて俺の上に跨ったアル。くそ。また、逃げられない。
「今日はやだ」
「知らねえよ」
「お願い、許して」
両手を伸ばしアルの背中に回せば、優しく俺を抱きしめたアル。
「俺から逃げようとするな」
「···うん」
「お前は俺だけを知っていればいい」
「···そうだね」
アルはこの一族の中に居場所が無いって昔言っていた。
大きいのに子供みたいに一つのものに執着したり、何もかもが嫌で怒ったり、誰かを愛す方法も知らないで、ただ俺を閉じ込めるだけのこれが、きっと何も教えられたことのないアルにとっての愛情表現。
「アル、ごめんね」
「···いい。」
「ねえ、一緒にそこの下にある花壇の手入れをしようよ。」
「お前をここから出したくない」
「俺は逃げないよ。約束する」
「···ちょっとだけだぞ」
また俺を抱っこして部屋から出る。
アルの黒の髪の毛がユラユラと揺れた。
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