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第60話
「俺達はね···まず、俺がアルを見つけたんだよね」
ジークの言葉にアルフレッドさんは嬉しそうに頷いた。
「俺、間違えて獣人の街に行っちゃってさ。ほら、獣人って人間を奴隷にしたりするでしょ?それで捕まりそうになったんだよね。奴隷なんて絶対御免だから。慌てて逃げて、走ってる内にとっくに街からは離れて森の中にいたんだ」
懐かしそうにジークの目が細められる。
その時を思い出してるのだろうか。
「その森でね、アルを見つけたんだよ。」
「え···?」
「逃げた先に獅子の獣人がいるなんて驚くでしょ?やばいって思ってたら後ろからも執拗に獣人達が追いかけてくるから、もう諦めるしかないのかもって思ったんだ。でもね、その時アルが獅子の姿になってくれて、背中に乗れって言ってくれた」
ジークがアルフレッドさんの手を掴んで、甘えるようにスリスリと頬を寄せる。
「アルってね、すごく足が速いんだよ!ビュン!ビュン!って走っちゃうの。···それで、獣人たちから逃げることが出来て、アルはそのまま俺を家まで送ってくれたんだ」
「じゃあ、アルフレッドさんはジークの恩人なんだね」
だから、そんなに仲良しなんだ。
「───違う」
それを否定したのはアルフレッドさんだった。
「確かにね、そこだけ聞けば恩人なんだろうけど···俺はアルのせいで住んでいた村を失ったんだ」
「え···?」
「アルって子供っぽいでしょ。嫌なことは何が何でも嫌だって言うし。その時アルも色々あってね、俺の村を憂さ晴らしに潰したんだよ」
ジークがそう言うとアルフレッドさんの顔色が曇った。
「とんだ迷惑だよね。」
笑顔でそれを話すジークに違和感しか感じない。
アルフレッドさんは小さな声で「ごめん」と呟いたけれど、その気持ちがジークに届いているかは定かではない。
「まあいいんだけどね。」
「···ジーク」
「あの日から、俺の世界にはアルしかいないんだ。」
ジークは振り返ってアルフレッドさんの頬にそっとキスをした。
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