73 / 170

第73話

優しい手が俺を撫でている。 そっと目を開けるとジークが微笑んで俺を見ていた。 「アル、獅子になってるよ」 「あ···悪い」 「ううん。いいよ、そのままで。」 ジークの手が俺の鬣に触れて優しく梳いてくれる。 時々耳の後ろや喉を撫でられて、気持ちよさにゴロゴロと鳴いてしまった。 「ふふっ、可愛いアル」 「風呂に入らないとな」 「あ、そうだね。ねえねえ、背中に乗せて」 「ああ」 ヒョイっとベッドを降りてジークを背中に乗せ風呂場まで急ぐ。そこについてから人型に戻ってジークと一緒に風呂に入った。 「足痛い」 「あれだけガラスを踏んでいたからな」 「もう絶対あんなことしない。痛いもん」 「ああ、そうしてくれ」 ジークの足があまり痛くならないようにと細心の注意をはらってジークの体を洗う。 不意に目が合うとジークは笑ってキスをしてくれるから、胸のあたりがキュッと苦しくなる。 「アルは怪我しなかった?」 「大丈夫だ」 「そう···よかった。」 お湯をかけ、泡を流すとすぐにジークが「抱っこして」と甘えてくる。それが嫌なわけではなく、むしろ嬉しいから言われた通りにして、一緒に湯船に浸かった。 「足、まだピリピリする」 「足だけ外に出すか?」 「やだ、寒い」 「なら我慢するしかねえな」 ジークが俺にもたれ掛かり「はぁ」と溜息を吐いた。 濡れた髪が顔に張り付いて邪魔なのか手で雑にかきあげる。それからゆっくり振り返って俺の唇に細い指が当てられる。 「ねえ」 「何だ」 「俺ね、もう落ち着いてるから、本当のこと話してほしいな」 ジークの言葉に俺はどうするべきかを真剣に考えるけれど、いい答えは浮かんでこない。 「···本当のことって、何だ」 「アルお願いだよ。嘘吐かないで、教えて」 ジークの願うことは何でも叶えてやりたい。 それは今も、昔も、そしてこれからも、変わらない。 「わ、かった。だが、せめて···風呂を上がって、茶でも飲みながらにしねえか」 「そうだね」 ジークが頷いたのを見てから、どこからどこまでの真実を話せばいいのかをまた、足りない頭で考えた。

ともだちにシェアしよう!