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第89話
腕の中にいるジークがもぞもぞと動いた。
ゆっくり目を開けると、ジークの大きな目が俺を見ていて思わず笑顔になる。
「おはよう、レヴァン」
「うん。おはよう」
「ルシウスさん、行っちゃったんだね」
「···うん」
ジークを抱きしめると「苦しいよ」と言われて慌てて力を緩めた。
「アルは···?」
「やる事あるからって」
「···そう。」
手を離すとゆっくり起き上がったジーク。
俺も一緒に起きてジークが「ご飯食べよ」と言ったのに頷いた。
「トーストに···あれ、ジャムがない!」
「これ?」
「違うの、それじゃない!」
テーブルについてトーストを焼きながらジークが焦り出した。ジャムはあるのに、それじゃないって言うから、どこかに落としたのかなぁと周りを見て回るけど、どこにもない。
「えー···、あのジャムないなら、ご飯いいや」
「ダメだよ、ご飯は食べないと」
テーブルから離れようとするジークを止める。
「だって···今日はあのジャムがよかったんだもん···」
そうジークが言った時、部屋の扉が開いた。
そこからはアルフレッドさんが現れて「あ、今から食うのか?」とこっちに来る。
「アル、あのジャムが無いの」
「ああ、今買ってきた」
「本当!?」
「昨日無くなっちまったからな」
アルフレッドさんの手の中にあるのはジャムの瓶。
色は黄金で、とても綺麗だ。
「それ、何のジャム?」
「これは金木犀」
「金木犀!?」
そんなジャムがあるのを初めて知った。
ジークがアルフレッドさんから瓶を受け取って蓋を開ける。
「アル、ありがとう!!」
「ああ」
でも、俺と会ってから今まで外に行ってたってことは、これを売っている場所まではきっと遠い所なんだろう。
だからこそ朝早くから買いに行って朝食に間に合わせてくれるアルフレッドさんって、本当優しいんだなぁ。
「アル、美味しいよ!これ、ほら、あーん!」
「ん」
金木犀のジャムを塗ったトーストをジークがアルフレッドさんの口元に持っていくと、まるで当然のようにそれをジークの手から食べて「美味い」と言ったアルフレッドさん。
「ね!やっぱり俺、これが一番好き!ねえレヴァンも食べてみて!」
「あ、うん!」
そうして食べたトーストはすごく美味しかった。
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