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第109話
「────ん···」
温かい。
少しだけ感じる浮遊感。そっと目を開けると俺はルシウスに抱かれながらお湯に浸かっていた。
「起きたか」
「···ルシウス」
「すまない。レヴァンの体のことを考えずに思うままに抱いてしまった」
「いいの。はぁ···ルシウス気持ちいい」
ルシウスの肌にピタリとくっついて、濡れた髪を撫でる。
「あ、忘れてた。」
その内に気付いたのは大切なことを忘れていたってこと。
「何をだ?」
「おかえり、ルシウス」
「···ああ、ただいま」
そっとキスをすると口角を上げて優しく笑うルシウスに嬉しくなる。
やっと帰ってきた。けれどルシウスの表情はすごく疲れていて、お仕事で何があったのかを知りたい。
「ねえ、お仕事、何してたの···?」
「···レヴァンは知らなくていい」
「知りたいの。教えて」
強くそう言うと視線を泳がせて、けれど今度は口を開き「従兄弟の所に行っていた」と話してくれる。
「従兄弟···?」
「ああ。名前はアーサーと言って···名前だけは立派なんだ。アーサーのせいで起こるはずのなかった問題が起きたり、今までそんなことは何度もあって···今回もその類いの尻拭いをしていたんだ」
「···言っていいのかわかんないけど、迷惑な話だね」
「そうだ。あいつは本当にいつもいつも···」
溜息を吐いたルシウス。
今は精神的にも疲れているらしい。
「ああそうだ、レヴァン」
「うん、何?」
ルシウスが俺の手を掴んで指を絡める。
「···後で、大切な話がある」
「大切な話···?」
「ああ。今は何も考えずレヴァンとゆっくりしていたい。」
「うん。わかった」
ルシウスの手をぎゅっぎゅっとして遊ぶ俺はルシウスの言う大切な話のことをそんなに深く考えないでいた。
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