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第114話

がむしゃらに走った先に着いた場所。 辺りには何もなくて、近くの原っぱに腰を下ろして上がっていた息を整える。 「はぁ···」 フィオナさんにまで当たってしまった。 また後で謝らないとと思うのに、それよりも先に何で俺があの時注意されるような言い方をされなければいけなかったんだろうと心底不思議に思う。 「俺だって、出来るなら女の子がよかったよ···」 そしたらもっとルシウスの役に立てた。 そう考えると悔しさに止まっていた涙がまた溢れてきて、ポタポタと落ちる。 そんな時、俺の座る原っぱから少し向こう。そこから3人の人が歩いてくる。 ゆらゆらとした影がハッキリとした時、その人達が突然こちらに走ってやってきた。何故かそれに恐怖を感じてすぐに走り出す俺だけれど、チラリと後ろを振り返れば、さっきまでいた人が獣の姿に変わっていて、走る速度も人の姿の時よりずっとずっと速い。 「はっ、はぁ···っ···っあ!」 一生懸命走っていたのに、普段そんなに運動をしてなかったせいか、何も無いところで躓いて転げてしまった。 「っ、いた···」 足を挫いたみたい。膝からは血が出てるし、痛くてじんわりと涙が滲むのを堪えて立ち上がろうとした。 「人間だ」 この人達が何の獣人かはわからない。その見た目はルシウスより迫力はないけれど、それでも人間ではない事が怖い。 「お前、1人か?」 「···············」 「なあこいつ顔綺麗だし、いい値で売れそうだぞ」 ケラケラと笑う3人。 話をするのは嫌で、隙があれば逃げてやろうと考える。 「でもよぉ、先にこいつで遊ぶのも有りじゃねえか?」 「そうだな」 ぐっと腕を掴まれて振り払おうとするのに力が強くてそれが出来ない。怖い、怖い、怖いっ! 「────おい、お前ら」 そんな時、明るいヘラヘラとした声の持ち主がやって来た。 声をした方見るとそこにいたのはルシウスに少しだけ似ている人。その見た目は少し派手で、けれどとても綺麗。 「一人の人間に寄ってたかって何をするつもりだ?まさか奴隷商人に売りつけるつもりか?」 その人の近くには久しぶりに会うルキアノスがいた。 俺と目が合って驚いたように目を見開く。 ルシウスに似たその人は三人の獣人を追い払い、俺を横目で見る。 「アーサー様、あの人はルシウス様の···」 「···へぇ。」 ルキアノスさんが俺の腕を掴んで「一人で何をしてるんだ!」と怒ってきたけど、俺が怪我をしているのがわかった途端、顔を青くさせて俺をそっと抱っこする。 「アーサー様、すみません。少し急いでも宜しいですか?」 「ああ。そうでもしないとルシウスに怒られる。けどな、人間。後で礼はしてもらうぞ。俺は急かされるのは大嫌いだからな!」 ケラケラと笑ったアーサーと呼ばれたその人。 名前を聞いてこの人が誰かがすぐにわかった。ルシウスの従兄弟だ。 「俺、邸に帰りたくないんだけど」 「それは何でだ?もしかして子供が来たか?」 「···何で知ってるんですか」 アーサーさんがニヤニヤとしながら俺にそう聞いてきたのを思い切り睨みつける。 「ルシウスとその話をこの間丁度したばかりだからな。」 「···あんたがその話をしなかったら、よかったのに」 「それは一族の終わりだ。お前はそれを望むのか?···これだから人間は自分の利益しか考えなくて嫌なんだよな。ルシウスの重荷を考えることもない」 「それはっ」 「言い訳なんて聞く気は無いぞ。俺はルシウスとは違って気は短いし、優しくなんてない」 ふん、とそっぽを向いてまた歩き出したアーサーさん。 かと思えば突然走ったり、違う道を歩いたりしてルキアノスを困らせる。 「···アーサーさんていつもああなの?」 「まだましな方だ」 ルキアノスも苦労してるんだねって少しだけ同情した。

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