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第121話

「ノックもせず入ってくるなんてどういうつもりだ」 「まあまあ、聞けよ。そいつは外にいた獣人共に奴隷商に売りつけられるところだったんだよ」 「何だと···!?」 ルシウスが怖い顔で俺を見る。 これは頗るまずい。離れようとするとそれより先に掴まれていた腕に力が入れられてそれが不可能だと理解して、ゲートに視線を投げる。 「ゲート。多分、ややこしくなるから部屋に戻った方がいいかも···」 「ややこしく···?」 「うん。えっと···」 「────レヴァン」 ひっ、と声が出そうだった。 慌てて声を飲み込んで恐る恐るルシウスの目を見つめる。 「本当にそんな目に遭ったのか?それがこの怪我の理由か!」 「···うん」 「そんな···そんな奴らがいる所までどうして1人で出て行ったんだ!もし本当に奴隷商に連れて行かれていたら見つけ出すのはとても難しいんだぞ!その間レヴァンはどうなっていたかもわからない!」 ルシウスが本当に怒っている。さっき怒らないって言ったのに、なんて言葉はふざけてても言えないくらい。 そんなルシウスの後ろではアーサーさんがニヤニヤと笑う。 「ごめん、なさい」 「もう二度とこんな事をしないでくれ。頼むから···」 「うん、もうしない。絶対しないよ」 壊れた人形見たいに縦に首を何度も振ってみせる。 ルシウスはやっと腕を離してくれて、俺を優しく抱きしめた。 「すぐに助けに行ってやれなくてすまなかった」 「···ルシウスは悪くないじゃんか」 「いや、レヴァンが邸を飛び出して行くようなことをしたのは私だ。」 部屋の中にはまだアーサーさんとゲートもいて、それなのにこんな姿を晒してもいいのだろうか。 「おい、チビ助」 「···それは、俺のことですか」 「ああそうだ。お前もそろそろここから出た方がいいぜ。こいつらが何かをし始める前にな」 「···それより、チビ助って呼ぶのはやめてください。」 「特徴を得てるだろ?なぁ、チビ助」 ゲートをからかって遊ぶアーサーさん。 ルシウスは「少し待ってろ」と言って俺を離し、アーサーさんを睨みつける。 「アーサー、それ以上ゲートをからかうのなら、私はもう二度とお前をこの邸には入れないからな」 「それは困るなあ、だがな、こいつはまだ何の教養も得てないんだろ?俺よりも何も出来ない。からかうなら今の内だろ?」 「その腐った思考をどうにかしろ。とりあえずお前との話はついた。早く帰れ」 ゲートを手招きをして呼ぶと目に涙を貯めながら俺のそばにやって来て、抱きしめてあげると「あの人ムカつくっ」と俺に愚痴を垂れる。 「そうだね。俺もあの人は好きじゃない」 「好きじゃなくても、話さなきゃダメなのでしょう···?」 「いや?別にいいんじゃない。···ねえそれより、俺の友達紹介してあげる!ついてきて!」 「え、ぁ···」 ルシウスとアーサーさんが何やら言い合っている隣を通って部屋を抜ける。だってあの二人のあの言い合いの様子じゃまだまだ続きそうだから。 向かう場所は邸の離れ、ジークとアルフレッドさんがいるあそこ。 「ここは···?」 「友達はここに住んでるんだよ。ルシウスの弟さんもね」 「ルシウス様の弟様···?」 「そう。名前はアル────」 アルフレッドさん。と言おうとした時、体がふわりと浮いた。ゲートと手を繋いでいたから、ゲートも一緒に体が浮いて咄嗟の事に空いていた手でがしりと掴む。 「お前、何でそんな怪我してるんだ」 「あ、アルフレッドさん」 「こいつは養子の···?」 アルフレッドさんの肩を掴んでいた俺はそっと手を離して、怯えているゲートに笑顔を見せる。 「この人がアルフレッドさんだよ」 「あ、お、俺···いや、私は···」 「···俺の前では畏まらなくていい。好きなように話せ」 アルフレッドさんは優しい。 少し怖い顔をしているだけだってジークも言っていた。 「じゃあ···えっと、俺はゲートです」 「ゲートな。」 アルフレッドさんはきっとジークの待つ部屋に向かっている。この人がジークを長い間一人にさせるなんてことは、きっとないから。 いつものあの部屋の前について扉を開ける。 中からは少し甘いいい匂いが。 「ジーク、客だぞ」 「客?」 中にいたジークと目が合って、ヒラヒラと手を振った。

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