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第144話
暫くそこにいて泣いていたレヴァンだけれど、突然ふらりと立ち上がり俺のそばにやってくる。
「アルフレッドさんは、優しいよね」
「何だ急に。」
「俺はアルフレッドさんに愛されてるジークが羨ましいなぁ」
「···何言ってる。お前もルシウスに······。ああなるほど。お前ルシウスと喧嘩したな」
そう言うと目を逸らしてしまうレヴァンに溜息を吐く。
「今度は何だ。またルシウスのことがわからないか?」
「···ルシウスは俺の味方じゃなかったみたい」
「あいつが?それはないだろ。いつだってお前を優先に考えてる」
「なら何で叩かれたの。」
腫れた頬をそうさせた犯人がルシウスだとわかって頭を抱えたくなる。
どれだけ腹が立っても俺はジークを絶対に叩いたりしない。それはそうすることで話がもっと拗れることも分かっているし、何より大切な人を自分の手で痛めつけるなんて考えられないからだ。
「ルシウスが叩いたのか」
「···うん。」
「理由は知らねえが···どうせ今はルシウスの所に帰るつもりはないんだろ?」
「二度と会いたくない」
「···わかった。とりあえず、しばらくは俺の部屋に来い」
嫌がるかもしれないと思っていたけれど、案外普通に頷いたレヴァン。
「俺がここに来たことは誰にも秘密だよ」
「わかった」
村から出る時、レヴァンにそう言われる。
瞼から流れる血は固まり出している。
「帰ったら手当するぞ」
「もう固まったからいらないよ」
「だめだ。化膿したら痛いぞ」
「···それはやだ」
そう言って突然立ち止まったレヴァン。
なんだ?と思ってじーっと見ているとポロポロとまた泣き出した。
「···お前、泣き虫だな」
「うるさいなぁ···!」
手の甲で何度も涙を拭うレヴァンは少しして俺をぼーっと見上げてくる。
ああ、この顔知ってる。
よくジークが俺に「抱っこ」という時に見せる顔だ。
そっと手を伸ばしレヴァンの両脇に差し込んで抱き上げると俺の肩に顔を埋めてそのまま泣く。
「ラビスさんのところにね、俺と同じ、村だった子が奴隷として飼われてたの···」
「············」
ラビスとは誰だ。
あまり外のことを知らない俺は、レヴァンが話す内容からそいつが獣人だって事を理解する。
「そいつらはね、ラビスさんに玩具にされてたんだって。すごく傷ついてるんだって」
「···そうか」
「でもね、そいつらは···俺に沢山酷いことしたよ。嫌なことも言われるし、さっきみたいに石も投げてきた。暴力を振るわれたこともあるし···犯されたことだってある。だから自業自得だって、殺してやりたいって言ったら···叩かれたの。」
その内容はあまりに重たいけれど、レヴァンは「俺、悪くないでしょ?」と何度も聞いてくるから、頭の中で話の整理をしてからコクリと頷いた。
もし、レヴァンじゃなくてジークがそうなら、俺はその人間をとっくに殺している。
「悪くない。俺はお前を責めない」
「···ありがとう」
レヴァンはその言葉が欲しかっただけなのだろう。
落ち着いたようで俺の腕の中でそのまま眠ってしまった。
邸について誰の目にも触れることなく、ジークと使っているのとはまた別の、俺がたまに使っている部屋に連れていきベッドに寝かせた。
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