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第5話 父親

 そこにいたのは黒崎の実の父親だった。  息を呑む息子に父親は絶対的な口調で命令する。 「雅文、車に乗りなさい」 「……俺はこれから仕事なんだ。あんたの言うことなんか聞けるかよ」  父親を睨みつけると、両側にいる男のうちの一人が黒崎の右腕をひねりあげた。 「痛っ……何を……」 「雅文様、素直に社長の言うことを聞かれた方が良いかと存じます。この大切な商売道具である右腕を私も折りたくはございませんので」 「やめろっ……」  どうやら男は黒崎が言うことを聞かなければ、本気で腕を折るつもりのようでギリギリと力を加えて来る。  父親は苦痛に顔を顰める息子の様子を冷たい目で見ているだけで決してとめようとしない。  昔から冷たく親らしいところはまったくない父親だったから、目の前で我が子の腕が折られようとも何にも感じないのだろう。 「やめてくれ、父さん。話なら今度時間を作って聞くから。病院で患者が待っているんだ。離して。頼むから」  黒崎は強く訴えた。でも。 「だめだ。おい雅文を早く車に乗せろ」 「かしこまりました」 「離せってば……!」  抵抗しても適うはずもなく、誰かの助けを求めようとしても、普段から人通りが少ない道は、人っ子一人いない。

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