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第6話 誘拐

 黒崎は無理やり後部座席に乗せられ、またもや男たちに両側を挟まれる。  まるで刑事に連行される犯罪者のような扱いだ。  右腕は解放されたが、逃げ出すことはできそうになかった。  父親が運転手に命じて車をスタートさせる。 「俺を誘拐なんかして、一体どこへ連れて行くつもりだよ?」  静かに走行を続ける車の中で、黒崎は父親をバックミラー越しに睨んだ。 「誘拐? 親が子を家に連れて帰ることが誘拐か? 雅文」 「家?」 「そうだ。おまえは今から家へ帰るんだ」 「…………」  繰り返される父親の言葉に、黒崎は太腿の上で両手を強く握りしめた。  家? 俺の家は、和浩さんと暮らす、あのマンションだけだ。  しかし、そんなことを言ったところでこの父親には通じないだろうし、黒崎が同性である沢井と結婚しているということを知れば、沢井に迷惑がかかるかもしれない。  だから黒崎は言い返すことをせずに、父親に頼んだ。 「…………父さん、せめて病院に連絡させて。俺が行かなきゃみんな心配するし、患者にも迷惑をかけるから。だから」  そしてポケットからスマホを出そうとしたが、いつの間にか隣の男が取り上げていて、父親が冷たい声で切って捨てるように言った。 「だめだ」 「どうしてっ……?」 「おまえはもうあの病院に戻ることはないからだ」  父親の言葉に黒崎は愕然となった。 「いったいどういうことだよっ?」  黒崎が説明を迫ると、父親はふんと鼻で笑った。 「変わったな、雅文。おまえがそんなに声を荒らげるなんて」 「うるさい、どういうことか説明してくれ」 「もうすぐ屋敷に着く。そしたら全て説明してやる。母さんも待ってるぞ」

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