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第7話 変化
母親まで揃っていると聞かされ、黒崎は嫌な予感しかしなかった。
母親は有名な美容師で、全国を飛び回り、ほとんど家にいたことがない。
助手席に座る父親同様、息子には関心がなく、親らしいことをしてもらった覚えはなかった。
夫婦間の関係も冷え切り……というか元々が政略結婚のようなものだったらしく、黒崎は両親が仲良くしている姿など見たことがない。
黒崎は全く愛のない家庭で育ったと言ってもいい。
愛猫のパンダとともに暮らした日々だけが黒崎の唯一の暖かい思い出だ。
それでも、黒崎は沢井との出会いで変わった。
愛し愛されることを知った心はとても暖かく幸せで満たされている。
今までは両親に対して冷たく閉ざされていた感情にも変化があった。
父親のがっちりとした肩幅を見つめながら黒崎は思う。
父さんと母さんがいなければ俺は生まれてなくて、和浩さんと出会うこともなかった。
だから、俺はそのことだけは父さんと母さんに感謝してる。
どうせろくでもない話が待ってるだけだろうけど、聞くだけ聞いてやろう。
それが嫌なことなら拒絶すればいいだけだ。
心を閉ざして逃げ出すんじゃなくって、きちんと説明を聞いて嫌なら嫌と言えばいい。
黒崎は小さな唇を噛んで覚悟を決めた。
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