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第20話 対父親
「何をやってるんだ? 雅文」
父親だった。
「……父さん……」
万事休す……?
いや、今は扉の傍に父さんしかいないから逆にチャンスかもしれない。
屈強な男たちと違って父さんは中肉中背だ。
少し乱暴だけど、思い切りぶつかり父さんを突き飛ばせば部屋から出れるかもしれない。
外に部下たちが何人いるかは分からないけど、何とか彼らの間を擦り抜けて階段を降り、玄関までとにかく走る。
上手く行く可能性は限りなく低いけど、もうこうなったら運に身を任せて強硬突破しかないのではないか。
黒崎が必死に策を巡らせていると、父親が不敵に笑った。
「雅文、この部屋には監視カメラがあるんだ。おまえが何をしてるかずっと見張らせてる。それに屋敷内にも外にも見張りは置いてある。おまえがここから抜け出そうと考えるのなんて完全に想定内だ」
「…………」
実の息子を部屋に閉じ込め、そこまでして逃がさまいとする父親に狂気に近いものを感じた。
このまま何もせず父親の言いなりになるのだけは嫌だと思った。
ダメもとで強行突破をするべく隙を狙っていると、父親が冷たい声で聞いて来た。
「そんなにあの沢井という男の元へ戻りたいか?」
どうしてそんな当たり前のことを聞いて来るのだろうか?
戻りたいと言えば戻らせてくれるというのだろうか。
父親の真意を測りかねていると、その酷薄そうな唇が尚も言葉を重ねる。
「決して戻らせはしない。……戻れないようにしてやる」
「……父さん……?」
「おい、入って来い」
父親が顎をしゃくると、後ろから、黒崎が連れ去られたときにいた屈強な二人の男のうちの一人が入って来た。
そして父親は信じられないことを口にした。
「雅文を好きにしていい」
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