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第35話 ようやく二人きりに……

 沢井は近くに車をとめていた。  助手席に黒崎を乗せると、自分は運転席に座るためにドアを開ける。  沢井は十八になった時すぐに車の免許を取ったが、医師になってからはほとんどハンドルを握ることのないペーパードライバーだったらしい。  忙しすぎてドライブなどする気も暇もなかったし、通勤も電車の方が楽だったからだと言う。  でも、黒崎と愛し合うようになってからは、またハンドルを握るようになった。  二人忙しい時間の合間を縫ってドライブするのはとても楽しくて。  ちなみに黒崎は免許を持っていない。  免許を取るための勉強をするくらいなら医師としてのスキルアップをしたいという理由からだ。  沢井は運転席に腰を落ち着けると、すぐに助手席に座る黒崎を思い切り抱きしめた。 「会いたかったよ……雅文。おまえの行方が分からなくなって俺、気が変になりそうだった」 「和浩さん……」 「家に帰ってもおまえはいない。病院でも顔が見れない。仕事もまったく手につかなくて、結局、松田部長から休みを取るように言われて。ただ知り合いの探偵がおまえの居場所を確かめてくれることに望みを託したんだ」  黒崎を抱きしめる沢井の腕が微かに震えている。 「ごめんなさい……和浩さん……心配かけて……」  そして黒崎は自分が誘拐と言ってもいい形で連れ去られた経緯を詳しく沢井に話した。  沢井は形のいい眉を顰めて黒崎の話を聞いていたが、やがて苦しそうに言葉を吐き出す。 「雅文……さっき、おまえの親父にも言ったけど、おまえを酷い目に遭わせた存在を俺は絶対に許せないし、勿論好きになることなんてできない。おまえにとっては血の繋がった親だとしても、俺はその存在を認めたくない」 「うん……和浩さん……」  それは黒崎とて同じだった。  自分はともかく沢井の右手までぐちゃぐちゃにすると脅してきた父親。  そんな存在を許すことなんかできない。 「……父さんが和浩さんに手出ししてきたら、俺も許さない」 「雅文……」  二人は見つめ合うと、そっと口づけを交わした。

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