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第36話 我が家

 車を走らせること数十分、自宅マンションが見えて来た時、黒崎は思わず涙ぐんでしまった。  もう二度と戻って来れないと思ってた。  でも、帰って来れた。  和浩さんが助けに来てくれた。  ありがとう……和浩さん……。  沢井は車のスピードを緩めると片手を伸ばして、黒崎の目に浮かんだ涙をそっと拭ってくれた。  マンションの地下駐車場に車をとめ、エントランスに回りエレベーターに乗り込む。  そのあいだ沢井と黒崎はずっと手を繋いでいた。  夜も遅い時間とはいえ、誰がエレベーターに乗り込んで来るか分からない。  それでも二人は手を繋いだまま離さなかった。  沢井が部屋の鍵を開け、黒崎を先に中へと入れてくれる。 「……ただいま……」  二人が使っているシャンプーの香りが染み込んだ部屋に向かって黒崎はそう言った。  だが、黒崎が懐かしさに浸っていられたのは束の間だった。  すぐに後ろから強く抱きすくめられる。 「雅文がいないこの部屋にいるのが辛くて、寂しくて、耐えられなかった……。おまえがどこかで苦しい目に遭ってるんじゃないか、傷つけられてるんじゃないかって思うと生きた心地がしなくて」 「……和浩さん……」 「ようやくここへ、俺の元へ戻って来てくれた……雅文……」 「和浩さ……っん……」  体勢を変え、正面から抱き合い、深いキスを交わす。

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