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プロローグ⑤
叶芽の父、柊麻人 。
彼は祖父の時代から続く家電企業を継ぎ、今ではITやロボット産業などを傘下にした大企業、柊グループの社長である。
そして千歳の番相手のαでもある。
「お帰り」
「ただいま千歳」
麻人は妻である千歳の頭にただいまとキスをする。
しかし、千歳はこう言うのを人に見られるのが好きではないため、嫌そうな顔をする。
「そう言うの止めろってば」
「いいじゃないか。
相変わらず釣れないなぁ」
「おい!!」
そう言って麻人は千歳にベタベタとスキンシップを図るが、千歳は全力で拒否する。
もうこれも日課であるので最早誰も気にしない。
この様な家庭で叶芽は両親達から愛情を受け、ぬくぬくと育った。
そして佑真と遊ぶ約束をしていた日曜日。
叶芽を迎えに佑真が家までやって来た。
「じゃあ行ってきます」
「待て叶芽」
佑真が待っているので早く玄関へ向かおうとしたら千歳に呼び止められた。
「何?早く行きたいんだけど」
そう言うと千歳は叶芽の首に何かを着けた。
「新作の首輪だ。
シルクを使っているから着け心地はいい筈だ」
首に巻かれたΩ様の首輪。
何度言っても叶芽は着けたがらないので千歳はどうにか安全性のために着けさせたいとあの手この手で画策するも失敗。
遂には首輪作りを始め、今ではそれが商売になっていた。
元々ぞんざいな扱いを受けるΩの首輪など、種類があまり無かった。
そもそもがΩの数が少ないので、儲からない。
だから作る必要性も重要視されてこなかった。
そこで千歳は叶芽が着けたいと言うような首輪を作って、ついでに販売もしていた。
勿論儲かりはしない。
そもそも金なら腐る程あるので儲ける必要も無い。
しかし
「首が締まる。
いらない」
首に着けること自体嫌な叶芽は千歳の親心など簡単に砕いてしまう。
「じゃあ急ぐから、バイバイ」
「あ、おい!!」
叶芽は首輪を外すと千歳に返し、さっさと行ってしまった。
「はぁ……」
千歳のため息は誰にも届くこと無く消えた。
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