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出会いは……④
「いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ」
カフェでアルバイトをしている渚はこの日も忙しく働いている。
それにしてもさっき助けた、2人の男に絡まれていた少年。
男なのに綺麗な顔だった。
それに……
「いい香りしたなぁ」
彼からフッと脳に届くような甘美な匂いがした。
何か香水を付けているのだろうか?
まぁでも、もう会うことも無いだろう。
渚は目の前の仕事に集中する。
「お疲れッす」
「はーい、おつかれ~」
バイトを終えた渚は、足早に帰宅した。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「お帰りナギ兄」
が出迎える中、もう一人中年の男性がいる。
「お帰り渚」
「親父帰ってたの」
「おう、もう父ちゃん疲れた」
「おつかれ」
「お前もな」
久々に会う父。
彼は長距離トラックの運転手で、家を空けることが多い。
母もスーパーの従業員として働いているので、家の事は渚が引き受けている。
とは言え渚もバイトしているので、そこは母の仕事との兼ね合いでやりくりしている。
「……ナギ兄なんかいいことでもあった?」
「え?」
不意に妹の菜々がそう聞いてきて、言葉に詰まる。
「もしかして彼女出来たとか?」
「え、ホント?」
もう一人の妹、日和が食い付いてくる。
「彼女なんていないから。
と言うかなんも無いよ」
「そうなの?」
「そうなの」
実際彼女なんていない。
以前付き合っていた女の子がいたが、バイトや家の事が忙しく、すれ違いで別れてからずっと恋人はいない。
しかし、いいことでもあった?なんて聞かれた時は実際ドキッとした。
何故ならあの助けた少年の事がどうも忘れられないから。
不思議な子だと思った。
何が不思議なんだと問われれば、答えに困る。
ただなんとなく気になっただけだ。
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