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恋人⑥

 叶芽のギリギリになっての言動に振り回される両親。 「麻人、時間大丈夫か?」 「う~ん、まぁ何とかするしかないよ」 「ったく、お前はもう少し考えてから行動しろ」  千歳の文句は止まらない。  それに耐えきれなくなった叶芽が反抗する。 「じゃあ電車で行くよ。 それでいいでしょ」  別に車で送ってくれなくていい。  1人で電車に乗って行くと叶芽は言った。 「アホか!! 満員電車に1人で乗るのは危険過ぎるだろ。 お前はΩなんだぞ!!」 「別に少し混雑するくらいなら普通に乗ってるし!!」  Ωの叶芽が満員電車で痴漢にでも会ったりするのではと言うのと満員の人混みに潰されてしまうのではと心配の千歳と、放課後渚と会うとき混雑した電車に乗るので問題ないと思う叶芽の意見は食い違う。 「行く時と帰る時なら、行く時の方が混雑するに決まってるだろ。 痴漢に会いやすいし、押し潰されるぞ。 俺はそこを言ってるんだ。」 「俺男だし大丈夫だもん」 「でもお前はΩだ」  千歳のΩと言う言葉に叶芽は黙る。  知ってる。  自分がΩだから普通ではない。  今まで散々言われてきたから……  でも、だからって制限されたり決めつけられるのは納得いかない。 「じゃあ今日は休む。 もう行かない」 「何言ってるんだお前は!! 我が儘も大概にしろ!! 大体成績も良くないのにこれ以上勉強が遅れると本当に留年するぞ!!」 「まあまあ千歳、落ち着いて」  このままでは埒が明かないと麻人が2人の間に割り込んできた。 「叶芽の気持ちも分かるよ。 男の子だし、もう高校生だもんね。 そりゃあ通学くらい自由にしたいよね」 「おい麻人!!」  叶芽の肩を持つような発言に千歳は怒る。  しかし麻人は真っ直ぐ叶芽を見据える。 「でもね、僕もお母さんも心配なんだよ。 たった1人の息子なのだから」  たった1人の息子………  叶芽には妹がいた。  けれど一度も会ったことがない。  何故なら叶芽が2歳の時、妹は生後1週間で重い心臓病で亡くなってしまったから。  だからこそ千歳は少し過保護になっている所がある。

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