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恋人⑨
柊家を訪ねて来たのはまだ制服姿の佑真だった。
「佑真………」
昨日の今日でどう接すればいいか分からず、気まずい雰囲気が流れる。
出迎えた千歳も2人の雰囲気に、やはり喧嘩したのかと悟った。
「佑真君、ほら入りなよ。
叶芽も、部屋に連れて行ってやれ」
「あ、うん……」
「すみません、お邪魔します……」
千歳に促され2人は叶芽の部屋へやって来た。
いつも当たり前のように来る部屋なのに佑真は少しよそよそしい。
2人とも沈黙のままだ。
普段ならこう言う沈黙も気まずいなんて思わないのに、今日は落ち着かない。
そして漸く佑真がこの沈黙を破る。
「ごめん、カナ……」
「………」
「俺本当はあんなこと言うつもり無かったのに……」
声を詰まらせ謝罪の言葉を口にする佑真を叶芽は黙って聞いていた。
「俺は………
俺はさ、怖かったんだ。
お前を取られるのが………」
「怖い………?」
「ああ、宮市渚とか言う突然現れたような奴がカナと親しくなって、しかも恋人とか腹が立って……」
「なんで……」
腹が立ったと聞いて何故なのか疑問に思った。
別に佑真にはなんの影響も無い気がすると叶芽は思う。
だが佑真に取ってはそうではない。
「中学ん時お前がΩって分かって俺はどう思ったと思う?」
「どうって……
関わりたく無いとか?」
一般に思うΩへの偏見だろうかと叶芽は考える。
「違う、そうじゃない。
俺は、お前とは運命の番じゃねぇんだってガッカリしたんだよ」
「………………ん?」
彼の言葉を理解出来ない叶芽は首を傾げる。
その様子に佑真は盛大に溜め息をついた。
「だから、俺とお前、今まで運命の番みたいに魂が惹かれ合うみたいなの無かっただろ」
「うん………」
それが一体何なのだと言うのだろうか?
「俺とお前は運命じゃないって分かって、お前には他に運命の番がいるんだろうって諦めたのに……
宮市渚は別にお前の運命の番ってわけじゃねぇんだろ?」
「………う~ん、よく分かんないけど特別に何か強く感じるわけじゃないかも?」
そう言うと佑真は唇を噛んだ。
「じゃあ俺の今までの片想いは何だったってんだよ!!」
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