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甘い時間⑩
それから2人は時間ギリギリまで一緒にいた。
帰り際は足取りが重い。
いつものように渚が叶芽を家の近くまで送り届ける。
「じゃあ、またね」
「うん……」
寂しそうに返事をする叶芽にそっとキスをした。
人に見られないかと思うよりも、もっと触れ合っていたいと2人は夢中で睦み合う。
漸く離れると、つっと唾液が名残惜しそうに糸を引いた。
そして叶芽は大きな邸に帰っていった。
「ふふっ聞いて聞いて!!」
充実したデートを満喫し、ご機嫌な叶芽はオカメインコに今日の出来事を報告する。
親や佑真には言えないが誰かに聞いて欲しいので、この子らに渚とのひとときを喋る。
端から見たら変人である。
そんな叶芽の変化は両親も気付いていた。
「最近よく出掛けてるようだな。
いい友達でも出来たか?」
そう千歳が聞いてくる。
「うん、まぁ……ああそうだ。
その、友達…?と結構マンション行くんだけどいいよね?」
最近はあまり使っていなかったマンションで渚と過ごすようになっていた。
なので一応親には断りを入れておかないと後々色々詮索されそうだ。
しかし恋人と過ごすなんて事は口が裂けても言えない。
「まぁいいが……」
そんなにマンションで何して遊ぶんだと疑問もある。
特にマンションで遊ぶような物は置いてなかった気もするがと思うが、叶芽が楽しそうにしているし、あまり干渉するのも子離れ出来ない親のようでここは聞かない事にした。
そして翌日の事。
「藤堂!!」
柊家の玄関に現れたのはスーツに身を包んだ端正な顔立ちの男性だ。
その男性に叶芽は抱きついた。
「お帰り!!」
「ただいま戻りました」
彼の正体は藤堂翔悟 、柊家の執事だった人である。
ずっと柊家に仕えていたが病を患い一旦は辞めたが、回復してこの度再びこの家に戻ってきた。
「もう大丈夫なの?」
「ええ、全く問題はありません。
ご心配とご迷惑をお掛けしました」
爽やかに微笑む藤堂を見て叶芽はほっとした。
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